70年代邦画と角川映画と犬神家

現在、調布の旧大映撮影所では、齢90の巨匠市川崑監督が、あの「犬神家の一族」のリメイクに取り組んでいるとのこと。
懐かしいやら、期待するやら、楽しみではあります。

犬神家の一族 [DVD]

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当時は“角川映画”という言葉が、良くも悪くも一定のイメージを形成していました。どちらかというと批判的な意味合いが込められていた訳ですが、私的には“春樹氏ガンバレ”的な応援意識を抱いていたものです。
その意識の出発点は、映画「犬神家・・・」の映像と音楽が当時の映画青年未満の高校生である自分にとって、結構カッコいい映画として刷り込まれたからでした。

そうなんです。70年代に思春期を過ごした世代にとって日本映画黄金期の映画作家たちは残念ながら過去の人でした。
勿論、クラッシックとしての価値は最大限に評価しリスペクトしていましたが、同時代の創作者としてはなかなか同じ立ち位置にいる方たちとは思えませんでした。黒澤しかり、木下しかりです。

その感覚は、黒澤の「影武者」をリアルタイムで観た時に痛感しました。すごいけど、僕らの映画じゃない・・・。その点では木下恵介高峰秀子と最後に組んだ「衝動殺人息子よ」の方が、今の映画を作っている感を与えてくれましたが。

そんな中で市川崑だけが、過去の名作に留まることなく、常に現在を伴走してくれた実感があります。だから、今回のリメイク発表がとっても嬉しいものに思えるのです。
市川監督、この歳になっても、まだ僕たちと走ってくれているって。

角川映画にとって、そのスタートが市川作品だったことはやはり幸運だったのだと思います。
もっとも、「蒲田行進曲」と「Wの悲劇」がベストワンになった頃には、角川映画自体を揶揄する声はなくなっていましたけど。

監督曰く「前の作品をビデオで見たら、これが実によくできていて(笑)、挑戦しようという気になりました」(雑誌NewWORDS記事より)。最高です。石坂浩二の継続起用も大賛成。

オリジナル作品も、横溝小説の映像化として初めて和服にボサボサ頭の金田一耕助を登場させるという冒険を実践してくれた訳ですし。あのスタイリッシュな画面デザインは今でも先端的なセンスです。
だって、エヴァンゲリオンの極太明朝タイトル文字は「犬神家・・・」に始まる一連の市川作品にあったことを知ってる若い人は少ないでしょう?

・・・少しとりとめもなくなってきました。
いずれにせよ70年代の邦画が持っていた独特の熱気(駄目さ加減も含めて)の中で10代を過ごした自分にとって、今回のリメイクはただのリメイクじゃないのでした。

70年代邦画の独特の熱気については、樋口尚文氏の労作にまとまっていますので、興味ある方はご一読を。

『砂の器』と『日本沈没』 70年代日本の超大作映画

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影武者 [DVD]

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