橋本忍と黒澤明 最近の書籍2冊

最近文芸春秋から2冊の注目すべき図書が出されました。

ひとつは田草川弘著「黒澤明VSハリウッド」。

いまひとつは橋本忍著「複眼の映像 私と黒澤明」。

『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて 黒澤明VS.ハリウッド

『トラ・トラ・トラ!』その謎のすべて 黒澤明VS.ハリウッド

複眼の映像 私と黒澤明

複眼の映像 私と黒澤明

前者は、20世紀フォックス映画「トラ・トラ・トラ!」における黒澤明の監督起用から解任に至る謎について、徹底した資料取材で解き明かそうとする試み。
後者は、戦後日本映画の良作を続出させた名脚本家 橋本忍が自らの創作のあり方と、殊に深いかかわりをもった黒澤明作品における共同脚本制作の顛末を語ったもの。

いずれも、戦後日本映画を観てきたファンにとって、より深く知りたいと望んできた領域の急所ともいえる部分に踏み込んだ書籍です。

この2冊を読むことで、おそらく多くの人が抱いている黒澤明のイメージを、より生身の人間像として修正させられることでしょう。

それは決して悪い意味でなく、天才と呼ばれた傑出した才の持ち主においても、その仕事に取り組む上での苦悩や誤解や失敗は存在するのだという、人間としての活動の地平の確認であり、その上でもなお、感動的な創作を追及する魂の存在を認識することです。

黒澤明の映画という、とびっきり面白い映像作品は、ある種奇跡的ともいえる複数の才能の重なり合いと恐ろしいほどの忍耐によって生み出されたのだということを、改めて思い知らされました。

また、付け加えるならば、「トラ・トラ・トラ!」をめぐる誤解と混乱の重複する構造は、誰もが大なり小なり体験するコミュニケーションの不具合が、信じられないほど巨大なギャップを生むものだという恐怖を覚えさせられます。


またまた、橋本忍氏が、自らの創作についてコメントした文章というものは、実はなかなか目にすることができなかったのです。
それは、金沢大学教育学部教授の村井淳志氏が昨年出版した「脚本家・橋本忍の世界」において指摘した通りであり、これだけの名脚本家について、私たちはこのまま時とともに忘れてよいはずがないではないか、という気にさせられます。

脚本家・橋本忍の世界 (集英社新書)

脚本家・橋本忍の世界 (集英社新書)

どうもコメントにまとまりを欠きますので、今回はこのへんにしておきますが、いずれにしても、この2冊は非常に貴重な書籍だと思います。買って損はありません。


※「映画検定」について触れるお約束でした。
 詳しくは結果が出てから記しますが、2級を受検して、全60問中正答は46問でした。
 合格の目安とされていた正答率7割はクリアしていますが、なにせ第1回の試験ですので蓋を開けるまではわかりません。