誠実さを欠いてしまったスタジオジブリ

話題の「ゲド戦記」。

安易で安直に作られた映画だと思います。
顧客満足度の低い、品質に瑕疵の多い商品だと思います。


ジブリマジック―鈴木敏夫の「創網力」

ジブリマジック―鈴木敏夫の「創網力」

スタジオジブリの経営のあり方はこの本に詳しい訳ですが、今回何故このような商品が世に出てしまったかを考えるにはよい参考書になります。

声の大きな独善的リーダーに率いられた組織は、なかなか自己修正が利かないものです。
イケイケの時は向かうところ敵なしの強さを発揮しますが、進むべき道を模索しながら進む時、それも過去の栄光を保持しながらという中では厳しいものがあるだろうと思います。


それにしても…。

ジブリのHPを拝見する限り、「ゲド戦記」の製作においては、宮崎駿が直接スクリプト、シナリオのレベルで品質管理を行うことを説明した上で、原作者から映画化の許諾を得ています。
そしてこれも同様にHPに記されていますが、宮崎駿はそれを一切行わなかったとのことです。
息子宮崎吾郎の創作についての品質保証を、父宮崎駿は行わなかったということです。

この不誠実な製作姿勢とは何なのでしょう?


この経緯を平然と公式HPで公開しているということは、そもそもこの経緯を不誠実な行動であるという自覚そのものがないのかもしれません。


別に、原作者に敬意を払うことが映画製作の要諦とは思いません。
顧客満足度の高い商品が生み出されるならば、許容されうることかもしれません。
ただ、上記のような不誠実な姿勢は、「ゲド戦記」という映画において一貫した問題のように思えます。
結果として、ブランドを高く評価して集客された観客の多くにとって、品質がないがしろにされてしまいました。


何故、国内コンテンツ産業の最高レベルの社会認知を得るに至っているスタジオジブリで、“世界的に高評価が定着している小説の映画化を、映画製作経験が皆無である巨匠監督の息子に監督させ、低品質にもかかわらず大々的な販売を行ってしまう”という、小学校高学年の子でも「ありえねー」と言いそうなことが行われてしまったのでしょうか?


このあたりの台所事情は、岡田斗司夫氏が「『ゲド戦記』についての暴言」という文章で、推測も含めて整理されています。興味のある方はぜひお読みください。
私は、その内容がかなり正鵠を射ているような気がします。
http://www.netcity.or.jp/OTAKU/okada/


どうも宮崎駿という稀有な才能の監督は、組織のリーダーとしては甚だ問題がある方のようです。
絶対上司にしたくないタイプの方ですね、きっと。
そこに、鈴木プロデューサーという、ある種豪腕の営業担当役員が相まって、行き着くところまで行ってしまった感じがします。おそらく組織内では、この二人に逆らうことなどあり得ないでしょうから。

何故監督が素人である息子だったのか、どうやらそれは消去法の問題で、それしか選択肢はなかったのだということです。映画の才はともかく、人柄として円満で素直な方なのだと思います。
これまで宮崎駿の耳元で様々な呪文を囁くことで、天才の創作をコントロールし、且つ営業面で成功させてきた鈴木プロデューサーにとって、今回も天才が痺れを切らして手を出すはずと踏んだ博打だったのでしょうね。

私はこの映画を観終わった時の、宮崎駿鈴木敏夫両名の本当の気持ちが聞きたいと思います。
でもお二人は墓に入るまで本音は吐かないと思いますが。


そこまで見切った上でですが、やはり宮崎駿は非常に魅力的な存在です。
齢65にして、創作上では素人の息子にすらジェラシーを剥き出しにするような天才職人ですよ。
絶対上司にはしたくないですが、傍で見ている分には恐ろしく魅力的です。こんなシニアになりたいものです。


因みに、私の一番好きな宮崎映画は「ルパン三世カリオストロの城」です。