「グエムル 漢江の怪物」のモドカシさ

kaoru11072006-08-21

めったに試写会など行かないのですが、「グエムル」を早めに確認しておきたくて応募したら当選しました。大々的にやってるみたいですね。応募すればOKみたい。これからちょくちょく応募しよう。

さて「グエムル」です。

感想としては、うーん、個人的には好き。
いや、大好きになりたいんだけど、咽に小骨がいくつも刺さったような咽ごしの悪さが邪魔して、好きって言い切れない、というのが正直な感じです。



ポン・ジュノ監督は、「殺人の追憶」に顕著ですが、その画面の力感がすごいのです。
この“画力の強さ”が、黒澤明を連想させるのでしょう。
それは今回も同様です。画面の迫力は十分。観客が観たいと思う画面をきっちり魅せてくれます。

モンスター映画ですから、何と言っても“怪物(グエムル)”をいかに画面に登場させるか、が肝になる訳です。その点はハイレベル。見応え十分です。 特に第1幕、怪物登場の段は本当に見事な迫力描写で、ここだけで鑑賞料を払った価値はあると思えます。

それ以降も、飽きさせることなく十二分な緊迫感で2時間をきっちり引っ張ってくれます。骨太の作品といっていいでしょう。

全体的には、そういう評価点がどっしり存在しているのですが…。
怪物の存在に翻弄される主人公たちをめぐる人間ドラマの部分、ここに何とも言いがたい違和感が拭えないのでした。
おそらく、この作品、日本国内ではその点に批判を浴びてしまうので、傑作足りえないと思います。勿論、韓国内では受け止め方が相当異なると思いますが…。

以下に、私が観た上での問題点を記します。


【以下ネタばれになりますので、これからご覧になる予定の方はお気をつけください】






●社会風刺的なコメディタッチが強すぎないか?

怪物に向き合う家族たち:モンスター・ホームドラマというモチーフは、ユニークなので評価したい点です。しかし、一家が孤軍奮闘せざるを得ない状況を作り出すためとはいえ、周囲の関係者(警察や行政、医療関係)の無理解・無知蒙昧・品性下劣さがあまりに低次元に描かれ過ぎでは?
韓国内での現代社会風刺としてはありなのでしょう。でも、いささか度が過ぎているように思います。
“狙った感”はわかりますが、ナンセンスコメディ色が強すぎて、本筋の緊迫感とそこに至る説得力を損なっていると思います。せっかく高水準VFXで見事に憎憎しげな怪物がいるのですから、余計な雑音は最小限にして、敵の存在をシャープにした方が良いはずです。その点乗れませんでした。


●怪物の出自を説明する描写は不要では?

序章と言える部分の薬品垂れ流し描写。後に活きてくる訳でもないですからカットしましょうよ。
下手に科学的な説明を加えようとしても、かえって陳腐になってしまいます。
謎の怪物が存在した。その理由などなくても、十分ビジュアルで存在感を訴えてますので、この映画においては不要だったと思います。


●主人公の娘を生かすべきではなかったか?

確かに、ひとつのリアリズムだしハリウッド的な作劇へのアンチかもしれませんが、クライマックスまで囚われていた娘を死なせる演出は、自分的には×でした。
演じるコ・アソンは中学生とは思えない見事な演技を見せてくれます。この娘の魅力が、主人公たちの必死の追跡の説得力となっているし、観る側も何とか助けたいという気持ちを強くします。
そして肝心なところですが、彼女は物語の中で、必死に勇気を持って努力を重ねていきます。こういう降りかかった厄災の被害者をドラマの軸に据えた場合、やはり最後にはその勇気と知恵と努力は報われるのがエンタメ映画ではないかと思うのです。
コメディ色も散りばめてきた割には、ラストにこういう悲惨な無常観を味あわせる…、この監督の作風といえるかもしれませんが、せっかくの見応えあるモンスタームービーのカタルシスとしては物足りない結果になっていると思います。



【ネタばれは以上。以下はご安心ください】



ポン・ジュノ監督は、「ほえる犬は噛まない」にしても「殺人の追憶」にしても、エンタメ映画の作劇のセオリーを崩したところからオリジナリティを立ち上げる方のようです。
それでもしっかりと面白い映画にしてしまう力量を持っています。

この「グエムル」でも、その独特の作風は活きています。
ですので、これまで観た映画のジャンルやカテゴリーに収まりきれない感があります。
それゆえに、異様な迫力を画面に焼き付けているとも思います。

しかし、しかしながら、怪獣映画が大好きな自分ではありますが、どうしても大好きになれない悔しさに身もだえしてしまします。


できるものならば、この映画、改めて例えば、伊藤和典氏あたりに脚本をリライトしてもらい、その上でポン・ジュノ監督に再演出してはもらえまいか、と思ってしまうのでした。