愛しい映画! : 「リンダ リンダ リンダ」

kaoru11072006-08-25

見逃していましたがDVD鑑賞。
一部評価が割れているようですが、世評はどうあれ私は大好きです。
114分間、本当に心地よく観ることができました。


高校の文化祭の3日間を舞台に、即席でブルーハーツをコピーすることになった4人のヒロインの過ごす時間が淡々と描かれているだけの映画です。


思春期を終えた頃の切なく切実な想いも、挫折と努力と成長も、現実の厳しさに直面しての自我の目覚めも、そういった要素は注意深く回避したかのように、描かれることはありません。
本当に淡白に、彼女たちの肉体を一定の距離を置きながら、体温の低い映像で眺めています。そう、観察しているといってもいいでしょう。

表情のアップの画面は殆どありません。ヒキの画を中心にカメラは固定しています。クライマックスのステージシーンですらそうなのですから当然ドラマティックな感情の迸り感はありません。多少なりとも体温を上昇させたい気分を期待すると空振りに終わるはずです。


似たような題材では、大林宣彦の「青春デンデケデケデケ」という青春期の共感がみっちり詰まった映画がありましたが、あのような面白さの重層感はありません。

近いところでは「スウィングガールズ」もありますが、あのようなハードルを越えて行く爽やかなカタルシスも最小限のものしかありません。

本当に、淡白なエピソードが時系列に並んでいるだけです。それでも、とても豊かな映画体験ができました。
これは、演ずる役者の肉体の魅力を徹底的に信じて委ねきったことから生まれた魅力です。

リンダリンダリンダ [DVD]

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企画当初のシナリオには、もっと劇的な設定やエピソードが盛り込まれていたのではないでしょうか?
完成した映画通りの決定稿シナリオのみを手にしたら、誰も資金を出さないのではないかと思います。文字にしてみたら些細なエピソードが団子の串刺しになっているとしか見えないからです。

おそらくは、企画が通って撮影に入る過程で、いろんなものを削ぎ落とす作業が行われたのではないかと思います。そしてそれは成功しています。


実写映画における役者の魅力。改めて認識しました。

4人の女の子、いや脇に存在する子たちも含めてそれぞれが本当に魅力的ですが、やはり韓国留学生役のペ・ドゥナ。彼女がいいです。大好きです。
どうでもいいようなきっかけでボーカルを担当することになった風采の上がらない留学生。私の眼は、終始彼女の表情と仕草をずっと追いかけていました。

未だ日本語が上手くない孤独な留学生が文化祭をきっかけに数人の友だちを得る。この映画の殆ど唯一と言っていい程の主人公たちの変化と成長です。
その程度の退屈になりかねない物語を、饒舌を封じられたペ・ドゥナの演技がもたらす緊張感と、にじみ出てくるコメディセンスが、観るものを飽きさせません。

これは、全身での表現力に乏しい役者に担わせると陳腐化してしまうはずです。
そのリスクをきちんとプラス方向に持っていった彼女は、実にいい役者だと感じましたし、山下敦弘監督の演出には共感を覚えます。
映画の中盤過ぎ、夜の体育館で“独演”するペ・ドゥナの全身を見つめ続けたシーンはとてもイイ感じです。(あと「恵の…、元カレ?」という台詞と仕草の愉快さは抜群です。)

リンダ リンダ リンダ オフィシャルブック

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私には登場人物たちの些細な変化や息遣いを眺めるていることが楽しかった。心地よかった。微笑ましかった。

現実の学校生活なんて、殆どの人間にとってさしたるドラマティックなことのない時間の連続です。そんなリアルな空気感の中、人生の最も魅力的な時間帯にいる少女たちの運動に接する感覚に酔わせてもらいました。
ありがとう。私には愛しい映画です。



今後もぺ・ドゥナに注目したいと思います(オフィシャルサイト、リンクしました)。