爆笑と感涙の奇跡的両立 : 私の大好きな原恵一監督

「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶモーレツ!オトナ帝国の逆襲」(01年)
「映画クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」(02年)


タイトルだけで興味を失くされる方も多いと思います。
しかしその場合、豊穣な映画体験の機会を逃されていると申し上げます。


ジブリ映画のステータスには及びもつかないお子さま向けギャグアニメ。しかもPTAの子どもに見せたくない番組No.1の劇場版です。
それでもなお、この2本は紛れも無い傑作。近年の邦画の中でもトップランクです。決して大袈裟な表現ではありません。所謂ベストテンものに入っていないのは、観ている批評家が少ないからです。


このページを訪問してくださった方で、未見の方がいらっしゃったら、一度レンタルしてみてください。キッズアニメを借りる気恥ずかしさを忘れさせる映画体験を保証いたします。
自分の大切な人には、是非観てもらいたいと願う種類の映画です。


お馬鹿で下品でナチュラルな5歳児“しんちゃん”が巻き起こすドタバタ騒動記、がお約束の物語世界。90分間の上映時間、子どもたちは爆笑の連続で大満足する徹底した娯楽アクション映画です。
それでありながら、引率して劇場に来た大人たち(男女問わず)は、笑いの隙間から胸に迫る感動と、こみ上げる涙を抑えられなくなる、というハイレベルな両立をなしえた作品でもあります。

しかもその感動と興奮の質は非常に知的で良質であり、脚本と演出の味わいは第一級品。


「オトナ帝国の…」では、“ノスタルジーの抗しがたい魅力”と“厳しくとも現実を前向きに生きる覚悟”の相克を、家族という身近な愛情関係の歴史の重みを絡めた徹底的な娯楽アクションの中で描ききっています。“生命の大切さ”を軽々に声高に叫ぶ凡百の作品より遥かに胸を打ちます。


一方「…戦国大合戦」は、正確な時代考証を背景に、日本の歴史と風土に根ざした切ないラブストーリー時代劇。そこにタイムスリップものの面白さを加え、肉体を超えて交錯するピュアな想いが胸を締め付けてきます。勿論アクション映画としての見せ場もたっぷり盛られています。


何と大袈裟なと言われるかもしれません。 重ねて言います。 大袈裟ではないのです。


脚本・絵コンテ・監督をすべて担当したのは、原恵一監督。

アニメーション監督 原恵一

アニメーション監督 原恵一

この方、一般的な知名度はありません。知る人ぞ知る、という段階です。
しかしながら、この2本の傑作を創作したことをもって、(↑の本にもあるように)小津安二郎木下恵介らによって紡がれてきた日本映画の“ホームドラマ”の系譜を受け継ぐ作り手であると思います。


クレヨンしんちゃん映画大全―野原しんのすけザ・ムービー全仕事

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