小説「深紅」の魅力 : 故野沢尚を惜しむ

一昨年自ら人生を閉じた脚本家 野沢尚の最後の映像脚本となった映画。


昨秋の公開時に観ようと思いながら、今日まで引き延ばしていました。

残念ながら映画はあまり評価できませんでした。

しかしながら、野沢氏の手による原作小説「深紅」には、最大級の賛辞を惜しみません。


深紅 (講談社文庫)

深紅 (講談社文庫)


底知れない闇を抱えて生きる若い二人の女の青春が交錯するドラマ。
自らの責に帰さない罪と罰を背負うことの重さと切なさが、胸の底をえぐるような物語です。


一家を皆殺しされて偶然生き残った少女が、8年の時間を経て同い年の犯人の娘と接点を持ったとき、何を想いどう行動するのか・・・。 
目一杯張り詰めた糸のような人物設定の緊張が、この物語を安易なものに落としません。

仮に設定を思いついたとしても、私にはその重みと緊張感に耐えて筆を進めることはできそうにありません。
しかし、野沢氏は物語を紡ぎきった。その上小説としての“面白さ”を存分に実現して。


「DIVE!!」を人生の光を見つめた傑作と評しましたが、この「深紅」は闇を見据えたところから人間の輝きをすくい出そうとする傑作だと思います。

闇をまさぐるようにしてしか見えてこない真実もあります。
脚本家・小説家:野沢尚が、一貫してエンタティメントにしのばせ描き続けようとしたものは、きっとそれだったのだと思います。


正直言いますと、私はほぼ同世代の野沢氏にずっと嫉妬していました。
それだけ、野沢氏の才能と努力の成果が眩しかったのです。

私は、脚本家としてよりも、小説家としての野沢氏が好きでした。

実際に、小説の方が面白いと思えるものが、私にとっては多いのです。
眠れぬ夜を抱いて」しかり、「破線のマリス」しかり、「恋人よ」しかり、「砦なき者」しかり。

特に、この「深紅」は格別です。


映画の脚本も野沢氏自身のものだそうですが、小説の持つ圧倒的な構成と心理描写に対して、映画の映像は対抗できていません。
異論ある方はおられるでしょうが、私には原作の抜け殻のような感じさえしました。

映画化にあたっては、まったく別のライターが脚本化し直した方がよかったかもしれません。


2年前、丁度彼の小説を立て続けに読んでいたときに訃報を知り、呆然とした記憶があります。

ひとりの輝かしい同世代作家の仕事をリスペクトすると共に、痛烈に惜しみます。


深紅 [DVD]

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※小説「深紅」は第22回吉川英治文学新人賞受賞作品でもあります。
 特に、前半の2章、小説ならではの描写は鮮烈で圧倒的です。