交錯する視線の魅力 P.ジャクソンの「キングコング」
あぁ劇場で観ればよかった!
欠点のない作品などこの世にない訳ですが、この映画も見事な出来栄えながら“長過ぎる”と言われてしまいます。確かに長いです。肝心の未開の島に着くまで1時間を要します。忍耐力がないと厳しいでしょう。
驚異のVFXによるモンスターバトルを期待した子どもたちなどは、この前半をどう耐えたのか気になります。
ですが私はこの前半、退屈しませんでした。
大恐慌の余波が続く1930年代のNYの庶民感覚や、ショービズの世界の実情を丁寧に観る事によって登場人物に感情移入しやすくなっていく、という効果がある訳です。この前半の長さには。
そういう建前はともかく、私にとってはナオミ・ワッツが大変魅力的に映ったことが大きいです。
その点では、コングに感情移入しやすくもあったということです。
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33年版のオリジナルを丁寧に愛情込めてリメイクしてありますが、やはり新作なりの独自性も盛り込まれています。
その中でとても素敵なリリカルなシーンが2つ。
ひとつは、コングに囚われて絶望的なヒロインが、生き延びるためにボードビリアンとしてマイムを演ずる場面。
リアリティある切迫感とコミカルさの自然な融合。
コングが何故彼女でなくてはならなくなったのか? 単に美女だったからというだけでなく、アクティブな魅力が加わることで2人(?)の結びつきに説得力を加えています。
この場面での、死ぬほど恐ろしい緊張の中でマイムするナオミの表情と全身での演技の素晴らしさ!
もうひとつは、NYで再会したコングとナオミの“スケート”シーン。
島の夕焼けシーンも美しい画面設計でしたが、このナイトシーンの美しさと微笑ましさ。
P.ジャクソン監督は、2人のクリスマス・ラブシーンを撮りたかったんだなと納得します。
長い長いと言いましたが、コング出現以後は台詞も激減して、観ることの魅力にどっぷり浸れます。
求心力あるシーンのつるべ打ちで画面に釘付けです。
前半の長い展開がある故に、登場人物たちを浅薄なステロタイプでなく、それぞれに人間としての深みを加えてくれてますので、台詞少なくてもアクションのみでしっかりドラマティックになっています。
特に、ヒロインの台詞が後半殆どありません。
にもかかわらず、私たちはコングとヒロインの心情の動きが手に取るようにわかります。
CG技術のクオリティが実現した、コングとナオミの視線の交錯の訴求力ゆえです。
映画の基本は視線の描写なのだと思い知らされます。
コングの眼の表情が素晴らしいですが、きっと虚空の目印を目標に演じたであろうナオミの演技も見事です。
こんなにセンスのある女優さんだったのですね。
「ザ・リング」も「マルホランド・ドライブ」も未見でしたが、何故この大作のヒロインに抜擢されたのか、私にはよくわかります。
モンスター映画のヒロインには高いセンスが必要なのです。
古典的モンスター映画を見事にリメイクしてくれたP.ジャクソン監督には拍手を送ります(「指輪物語」は観てませんが)。
できれば、米国版ゴジラもリメイクしてくれないでしょうか?
※評価の高くない76年版ですが、好きな場面もありました。
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戦闘ヘリのバルカン砲に打ち抜かれるコングとジェシカ・ラングの別れのシーンは、それなりになかせてくれる場面になっていたと思います。