追悼:小林久三  「皇帝のいない八月」

作家 小林久三氏が亡くなった。
70歳だったそうです。未だ若いといえる年齢です。

私は小林氏のよい読者ではありません。なにせ殆ど著作を拝読していません。

ですが、高校時代に受験勉強の合間にキネマ旬報で読んだ、氏原作の「皇帝のいない八月」の映画化記事に膨らませた期待感が忘れられません。


あの頃映画 「皇帝のいない八月」 [DVD]

あの頃映画 「皇帝のいない八月」 [DVD]

自衛隊元将校の藤崎(渡瀬恒彦)らが博多発東京行のブルートレインさくら号を占拠。クーデター勃発を危惧する政府は事態の収拾に乗り出す。緊迫した列車内では藤崎とその妻(吉永小百合)、彼女の元恋人(山本圭)がそれぞれの立場と想いを胸に葛藤する。その頃内閣調査室の利倉(高橋悦史)は権謀術数の限りを尽くして藤倉の野望を阻止しようとしていた・・・。


社会派の大御所山本薩夫監督によるオールスターキャストによるクーデターもの。78年作品。
“皇帝のいない八月”とはクーデターのコードネーム。
この日記のタイトルはそのもじり(私の誕生月が3月だから)。


実は公開当時、私は劇場で観てはいません。
ただ、そのプロットとネーミングの格好よさにシビレていました。
映画は観ずとも受験生だった頭の中は、勝手にハードなイメージを紡ぎ続けていたようです。


翌年上京して名画座早稲田松竹!)で観たのですが、何ともゴテゴテした映画で傑作とはいきませんでした(吉永小百合絡みのラブストーリーが余計)。
ただ、“渡瀬恒彦の狂信”“山本圭の左翼的良識”“高橋悦史の狡猾”“山崎努のヒロイズム”がぶつかり合って異様な熱気を孕んでいました。 男たちの映画でした。

中1で観た「日本沈没(73年版)」に続き、極限状態で使命感に燃える男たちとはこういう姿なんだ、と刷り込まれたのでありました。


当時は三島由紀夫の自決からそう年数がたっていた訳でもなく、こうしたプロットが成立する社会状況でもありました。現在では空気が違っていますので、リアリティの点で難しいかもしれません。もはやブルートレインさえ走っていません。


その原作者が小林久三氏。そもそも氏は松竹のプロデューサーだったこともあり、自らの原作が映像化されることの喜びが、キネ旬に記されていたと思います。

高校時代に中年じみたものに惹かれていたことを不思議に思いますが、この物語は私にとっての“格好良い男性像”を刷り込んだものであったことは間違いありません。

そんな起点を作ってくれた作家が没しました。合掌。


皇帝のいない八月 (新風舎文庫)

皇帝のいない八月 (新風舎文庫)