大林宣彦 「ふたり」 : クールな叙情に浸る

kaoru11072006-09-15

前ページのお題は同世代の女性には不評なので、早く次を書いておきます。


私の大好きな大林映画の世界について。

所有する大林映画のDVDは2本。「時をかける少女」と、この「ふたり」。
(「転校生」も持っていたのですがAmazonで売ってしまいましたとさ。)


赤川次郎の原作を、お得意の尾道を舞台にして、丁寧に構築した作品。
NHKで前後編に分けて放送された後に、一本にまとめて劇場公開されたと記憶します。もう15年以上たちますか。


ストーリーは今さらいいでしょう。

要領が悪くて内気な妹と、利発で外交的な姉。そんな姉の急死。
中学・高校生活の日常の中で戸惑い悩む妹のそばに、姉の幽霊が寄り添ってくれる。
現実の世知辛さの中で、姉に背中を押されながら、少しずつ成長していく妹の物語。


最近の邦画は愛する人の幽霊が出てくる話のオンパレードで食傷しますが、この映画はその端正な先駆け。

姉妹を演ずる石田ひかり中嶋朋子がいい。
妹の親友役の柴山智加がキュート。 若き日の島崎和歌子中江有里まで登場し、美少女映画の面目躍如でありますが、そんなオタク的な雰囲気は感じさせない仕上がりです。

ふたり デラックス版 [DVD]

ふたり デラックス版 [DVD]

微笑ましいコミカルな演出も挿まれていますが、この映画に一貫しているのは現実の人生は残酷な出来事の連続であるという諦観です。

ヒロインが直面する日常の出来事には本当に容赦がありません。
登場人物を徹底して突き放して描いています。
これは脚本の桂千穂のテイストが生きているものと思われますが、その意味で非常にクールな映画です。


思春期の誰もが直面する、家庭の事情の重みとか、学校での人間関係で知る他人の残酷さとか、そういうものに出会っていくヒロインに同情することなく冷静に見つめ続け、伴走してあげている感覚です。

だから、近年の幽霊もの映画のようなベタついたお涙頂戴もありません。

それでも物語の要所要所に、ぐっと胸を衝かれるような描写があって、150分近い長尺を飽きさせることなく魅せてくれます。
(例えば、ヒロインと対立していた級友が和解する場面の見事さ。 例えば、ヒロインが親友に起きた不幸を知らされる場面のリアリズム。etc.)


最近の大林監督作品は観ていませんが、私はこの人の人間洞察というか人生を見つめるスタンスが好きです。
生にも愛にも、喪失にも死にも、等しく価値を置いて描いていく距離感が好きです。


あの「時をかける少女」も、原田知世のアイドル映画として語り継がれていますが、あの映画の本質は、死と喪失の物語です。
喪われてしまって、もう物理的には接点がもてない対象に対する、切なる想いと願いを大事に大事に抱いてあげる、そんな作品世界でした。


「ふたり」にも、そういう人生の負の部分に対する尊重が描かれていて、とても大人の感覚がありました。


静謐な青春映画の佳作。という位置づけになりましょうか。
大事な大事な映画の1本です。


※ただこの映画、たったひとつ瑕疵があるとすれば、エンドロール。
 監督自ら作詞の主題歌があるのですが、何も自ら歌わなくてもいいじゃないですか! そこだけ台無し・・・。