散華への鎮魂 「男たちの大和」 に連なる映画たち

kaoru11072006-09-18

ヒット作です。DVDにて鑑賞。

結論から書きますと、私にとっては特に強く響くものはありませんでした。しかし、このタイミングで世に出ている価値は大きな作品です。
こういう映画がヒットすることは良いことです。特に10代、20代の若い方々には観てもらいたいと思います。

描写の特徴としては「プライベート・ライアン」と「タイタニック」の影響を強く受けています。ちょっと「タイタニック」は参考にし過ぎです。戦闘シーンの悲惨な迫力はなかなかのもの。 尾道に作られた巨大セットの甲板から視点が動かないという狭苦しさはありますが、一将兵の視点に立てば実際の戦場の景色とはそういうものでしょう。CGが活用できる現在ですので、模型の軽さを排して、それなりにリアルで重厚な画面を見せてくれます。

しかし、この映画の主眼はあくまでも大和に乗り込んだ若い将兵たちの心情です。 絶望的な戦闘シーンをクライマックスに置き、その前後を丁寧に誠実に描いています。例えば、松山ケンイチ演ずる年少兵と幼馴染の蒼井優のエピソードは、ふたりの好演もあって情感豊かな場面になっています。
私が感心したのは、生き残った松山が、死んだ戦友の母親を訪ねる件と、“広島”に蒼井を訪ねる件。戦闘から帰還したものの姿をひとつながりで見せてくれる映画は少ないですので、このラストはよかったです。

出演者たちもなかなか頑張っていましたが、反町隆史には不満。演技はよかった。 しかしあの頭はないのでは? 髪の短さが中途半端です。
食べ物を扱う部署を描くのは新鮮だっただけに、当時の状況下で衛生管理を最大限留意したはずの部署を任された将兵なら丸坊主以外ありえないじゃないですか。 役作りの本気度を疑ってしまいます。

男たちの大和/YAMATO 限定版 [DVD]

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かつて東宝映画に太平洋戦争の戦場を描いた作品群がありました。後年、毎年夏に公開される“8.15シリーズ”と呼ばれるものになっていきました。(最近TSUTAYAにも並んでいます。「太平洋の嵐」とか)
観客動員ねらいのスペクタクルではあったにせよ、戦場を体験された世代が映画製作の世界でも現役であった時代に作られた映画たちでした。これらは、昔よくTVで放映されていて、子どもの頃円谷英二の特撮目あてでよく観ていました。一緒に観ていた父親にいろいろと質問し、太平洋戦史の学び始めでもありました。

男たちの大和」で描かれた世界は、これらの作品群で積み重ねられた描写を超えてはいません。それを最新技術を用いて再現して見せたというべきでしょう。
私はこういう戦争映画・戦場映画は、作り続けられなければならないと思っています。60年前の経験の記憶を、新しい世代に引き継いでいくためには、映画の果たすべき役割はあると思っています。その意味でヒットしたことは大事なことです。日本が中国や米国と戦争したことすら知らない人たちが、着実に増えつつあるのですから。


男たちの大和」に感動された方に、できれば追加して観て欲しい映画たちがあります。比較的見やすい80年代の作品です。いずれも、散華された先人たちへの敬意と鎮魂、そして作り手の切な願いと祈りが込められています。


連合艦隊】81年

連合艦隊 [DVD]

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男たちの大和」で描かれた世界は、この作品の中にも納まっています。
中井貴一のデビュー作でもありますが、東宝戦争映画の総集編的な作品になっています。監督の松林宗恵は僧侶であり海軍経験者でもあります。
松林氏の話を直接お聞きする機会が5年ほど前にありました。監督は、ラストで特攻機沖縄戦域を目指していく中井貴一の独白に、当時に青春を生きた自らの万感の想いを込めたと言われていました。私は中井の父を演じた財津一郎の演技に胸を衝かれました。
予算の制約でしょう戦闘場面には旧作の流用やニュース映像が使われてはいます。しかし、そんな弱点も超えて、散華した当時の若者たちの心情、銃後でその喪失を噛みしめたものの心情、海軍組織の中で職務を遂行したものたちの誠意と限界に、とことん添い遂げるような描写には、戦後生まれの私たちも揺さぶられます。私は「男たちの大和」に勝る映画だと思います。


二百三高地】80年

二百三高地 [DVD]

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これは日露戦争ですが、通じる精神は同じです。脚本は笠原和夫(「仁義なき戦い」が有名)。
前述の8.15シリーズとは別の系譜に属しますが、日本の戦争映画の傑作です。当時の為政者たちから貧しい庶民までの横断的な視点から、国が戦争を行うことについて丸ごと描ききっています。今は亡き夏目雅子演ずる進歩的な女教師が、戦場で恋人を喪って「美しい国日本、美しい国ロシア」という一文が板書できなくなるラストは切ないです。


大日本帝国】82年

大日本帝国 [DVD]

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同じく笠原和夫の脚本。信じられないことに、この映画は公開当時“太平洋戦争賛美の好戦的映画”と批判されました。その時の偏見が、DVDのジャケットデザインにまで及んでいます。とんでもないことです。
故郷を遠く離れた戦場で、なすすべも無く倒れていった人々への誠実な鎮魂が込められた映画です。例えば、結婚後すぐに夫を出征させた高橋恵子演ずる妻の、銃後を生き抜く姿に打たれます。また、三浦友和演ずる部隊長がサイパンの絶望的状況下を逃げ延びて、最後は投降しようと米兵たちのもとへ出て行こうとする。すると彼らが楽しそうに日本兵の頭蓋骨でサッカーに興じている。それを見た三浦は銃を採って撃ち殺してしまう。理想論や教条主義を超えたひとつの真実が描かれています。この映画の一体どこが好戦的な戦争賛美なのか、誰か教えていただけないでしょうか?