「太平洋奇跡の作戦 キスカ」1970

レンタルDVDの種類が豊富になって嬉しい。昔見逃していた映画のチェックが本当に容易になりました。この映画も中学生の頃TV放映を見逃していて、翌日クラスメイトから「良かった」と聞かされて悔しい思いをしてました。という訳で「キスカ」です。

太平洋奇跡の作戦 キスカ [DVD]

太平洋奇跡の作戦 キスカ [DVD]

昭和40年、三船敏郎はじめ東宝男優オールスター出演 丸山誠治監督作品。戦後日本の戦争映画としては異色作です。極めて稀なことに、成功した軍事作戦に材を得ているからです。
米軍に制海権・制空権を握られ敗色濃厚となった昭和18年夏。太平洋戦線の各戦略拠点の守備隊は補給も脱出もかなわず悲惨な玉砕を繰り返し、戦略的価値を失い敵に包囲されたキスカ島の守備隊約5,200名も死を覚悟するだけだった。海軍軍令部も玉砕止む無しに傾く時、キスカ救出作戦を主張した川島中将(山村聡)は盟友でもある大村少将(三船敏郎)をラバウルから呼び寄せ、作戦の指揮を委ねる。圧倒的な戦力差の不利の中、濃霧のみを頼みにした決死の敵中突破救出作戦が遂行される…。
この映画が素晴らしいのは、戦争の悲惨さを十分認めた上で、人間が生き抜くために発揮するべき知恵と忍耐、そして勇気と協調を、ひとつの勇壮な讃歌として語っていることにあります。結果として成功した救出劇ですので、日本の戦争映画には珍しくクライマックスでの死屍累々といった描写はありません。描写も常に軍隊内に限定されており、出演者に女性は皆無です。勿論、いくつもの悲惨な犠牲は描かれますが、その情緒的な描写は最低限に抑制され、それらがこの映画をとても知的なものにしています。
史実に基づいていますし、当時の状況は局地的にも日本海軍が米海軍を戦力的に上回ることなどあり得ません。したがって、戦術はいかにして敵の裏をかくか、のみになります。決して勇猛果敢な戦争賛美の映画などではありません。あくまでも、絶望から脱出するための希望と勇気の物語なのです。
かつてこの映画が上映された時、劇場ではエンドマークとともに拍手が起きたという逸話が残っています。その気持ちがよくわかる映画でした。もっとも、公開当時の戦後民主主義的な、所謂朝日新聞的な価値観からは、このような映画の存在は積極的に取り上げられることはありませんでしたが・・・。
それでもこの映画は、戦後の日本人が観ておくべき映画のひとつだと、私は思います。戦争の持つ悲惨と絶望を知った上で、そうした局面でもなお、人間の知恵と勇気は希望をもたらしうるものであり、そうした作戦を実行した人間たちがいた、ということは知っておくべきことだと思います。
まったくこうした役を、三船敏郎以上の存在感で演ずることができる役者って、出てくるんでしょうかねぇ。