「クラッシュ」2005

 アカデミー賞3賞受賞時から気になっていたのですが、観るまでに時間がかかってしまいました。

レンタルが7泊落ちするまで待つので、なかなか新作で観る事ができません。ご容赦ください。


クラッシュ [DVD]

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ポール・ハギスはこれが初監督とのこと。いきなり作品賞受賞とは驚きですが、端正でわかりやすい演出を観ると納得です。
多数の登場人物のエピソードが複雑に絡み合う物語を、殆ど混乱させることなく観客に理解させる話術だけでも凄い才能だと感じさせられます。


モチーフは人種差別に基づく人間の不信と不安の連鎖です。
非常に考えて描きこまれた脚本で、多様な人種の登場人物たちがそうした事態に直面するエピソードが積み重ねられていきます。

現実には、こんなに上手いバランスで人々が交じり合うことはないでしょうが、語り口が上手いのでそういうリアリティの問題は気になりません。レベルの高い舞台劇を観ているようです。

何ともやりきれないエピソードの羅列で、人間を突き放して描ききる映画かな、と思っていたら、中盤を過ぎるあたりから人物たちが引き寄せられるように衝突し始め、エンターティメント映画としての面白さを発揮していきます。ラストの多少の苦さを含んだ心温まる感覚にそれは顕著です。
心地よい裏切られ方をしました。

この映画は、人間の暗い側面を深く掘りながら、それでも救われる何かがあるだろうという想いを寓話のようにして見せているのだと思います。
これは娯楽劇映画ですから。現実のやりきれなさのみを描くのであれば、ドキュメンタリーの方がよいでしょう。
社会的な問題を、商業ベースに乗せる手腕というものにうならされます。


この映画の生命線は、人間を丸ごと深く捉えて描く努力をきちんとしているところだと思います。

人間は多面的です。頑迷な差別主義者が勇気ある救済者であったりすることは当然で、そんな描写が感動を支えます。
最近は結構評判のよい映画でも、そんな多面性が描かれず、悪キャラは悪のままに描かれていることが多いですから。


ちょっと、今日は文章がうまくまとまりません。
こんなところでご勘弁ください。



今後、日本においてもある程度の規模で人種の多様化は進むだろうと思います。
他民族社会の軋轢が現実のものになったとき、わが国の子どもたちのいじめ問題は、きっと今とは異なるものになることでしょう。ふとそんなことを思いました。