「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」1983

名優 藤岡琢也の訃報。またひとり、昭和の俳優が去りました。
殆どの活躍の場がTVでしたので、比較的若い人も知っていると思います。晩年は橋田ドラマの常連でしたし・・・。
例えば「太陽にほえろ!」における鮫島刑事シリーズ、また例えば“サッポロ一番”のCMなど、私にとってもTVでのなじみが多いのですが、劇場映画で印象深かったのがこれです。

うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー [DVD]

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あの押井守監督が、劇場用アニメ映画作家の地位を確立した84年の作品。
当時人気だった高橋留美子の連載マンガのキャラクター世界に材をとりながら、非常に知的で独特の視点から組み立てた面白さに溢れていた傑作でした。


主人公のラム、あたる達は明日に迫った学園祭準備のために友引高校に泊り込んでいた。慌しくも楽しく愉快な一晩が過ぎたが、翌日もまた学園祭の前日だった。そういえば、このところ毎日が学園祭の前日だったような気がする・・・。幾人かがその不思議さに気づき、状況を調べ始めたとき、世界はいっきに不条理な状況に一変した。


知的な不条理劇に、青春期の感傷とラブコメディの楽しさとアニメならではのナンセンス描写を掛け合わせた、稀有な成功作。 今でもカルト的人気は衰えていないはず。
この物語の敵役(?)、主人公達を不条理世界に閉じ込める妖怪“夢邪鬼(むじゃき)”を演じたのが藤岡氏でありました。

優れた役者は、映画でもTVでも舞台でも、はたまた実写アニメの区別を問わず、優れた物語と演出にはきちんと向き合うものだと思います。
ここでの藤岡氏もまさにそれ。たかがギャグアニメではありますが、作品世界のムードを壊すことなく、きっちり自分の持ち味を出し、夢邪鬼=藤岡琢也という構図を当時のアニヲタにも印象付けていました。

口先では毒舌を吐きながら、心根の奥では真摯な人情深さを持ち合わせる男を演じさせると見事な俳優でした。

役柄になりきるというより、どんな役柄も藤岡琢也にしてしまう演技とキャラクターは、まさにTVドラマにぴったりだったと思います。
顔を出さないアニメの声優演技でもそれは変わらず、成る程と思わせるキャスティングでした。


一月ほど前の丹波哲郎氏をはじめ、自分達の世代が子どもの頃に大人の男を演じて見せてくれていた俳優達が、去っていく時期になったということでしょう。
ご冥福をお祈りいたします。