「セント・オブ・ウーマン 夢の香り」1992

kaoru11072006-10-28

アル・パチーノが92年のアカデミー賞主演男優賞を獲った傑作。157分と結構長いですが、それに十分見合う見応えが得られるはずです。


全寮制の名門ハイスクールの奨学生チャーリー(クリス・オドネル)は、週末のアルバイトで盲目の退役軍人フランク(アル・パチーノ)の世話を頼まれた。学校では裕福な級友たちによる悪質ないたずらが起き、間の悪いことにチャーリーは目撃者となった。犯人探しをする学校側は彼に進学推薦か退学かをちらつかせ、週明けには白状せよと迫る。
憂鬱なチャーリーはバイトに向かうが、傍若無人なフランクに無理矢理ニューヨークへの旅に同行させられることになる。頑迷なフランクの突飛な振る舞いに翻弄されながらも、チャーリーは次第にフランクと心を通わせていく・・・。一体、フランクの行動の謎とは何か? 学校におけるチャーリーの立場はどうなるのか?


ボー・ゴールドマンの脚本と、特異なキャラクターを演じたアル・パチーノが見事。まったく世界の異なるかけ離れた2人の人物が、ある週末を共に過ごす間に影響しあうことの面白さ。


その面白さの大部分は、やはりアル・パチーノ演ずるフランクの人物像。
頑固で毒舌家、昂れば暴力も厭わず、過去の栄光に住み、強がりで見栄っ張り、その上無類の女好き。こんな人物が身近にいたら迷惑を被ることが多いでしょう。が、その言動は一貫した美意識とプライドに裏打ちされています。決してそれを崩すことはありません。周囲の動きに迎合することはありません。
クリス・オドネル演ずるチャーリーは最初、辟易しながらも、物語の進行と共に、彼の信念を理解していきます。

大人が若い世代と接するときには、このようなあり方でいたいものです。そうした関係にこそ、師弟関係はあるのではないでしょうか。


映画の圧巻は2つのシーン。
ひとつは、中盤にあるダンスシーン。アル・パチーノが、ガブリエル・アンウォーを誘ってタンゴを踊る名場面。見事な踊りと、アンウォーの目の覚めるような美しさ。
もうひとつはラストのクライマックス。
アルバイトを終えて登校したチャーリー。いたずらの犯人を特定するための全校集会で、いつしかチャーリーは苦境に立たされる。 そこにフランクが現れて・・・。

ラスト近くのフランクの台詞。不祥事の続く学校現場に関係する方々には、かみ締めてほしい台詞。

俺は多くを見てきた  昔は見える目があった
ここの生徒より年若い少年たちが、腕をもぎ取られ脚を吹き飛ばされた
だが誰よりも無残だったのは魂を潰された奴だ
潰れた魂に義足は付かない

私も何度か人生の岐路に立った
どっちの道が正しい道かは判断出来た  いつも判断出来た
だがその道を行かなかった  困難な道だったからだ

チャーリーも岐路に直面した  そして彼は正しい道を選んだ
真の人間を形成する信念の道だ

彼の旅を続けさせてやろう  価値ある未来だ  保証する 
潰さずに守ってやってくれ  愛情をもって
いつか それを誇れる日がくる


PS : 高校の必修科目未履修問題の報道を見ていてひとこと・・・。

あるTVで、学校の履修科目が社会に出て役立ったか? という馬鹿げた街頭インタビューを行っていました。「確かに世界史が役立った人は少ないですね」などと、アナウンサーがとんでもないコメントをしていた。報道するマスコミにも、おかしな大人が相当いる。

最近の世の中は、実用と効率の経済でしか物事の軽重を量らなくなっています。人間の教養というものは、そんなものではないでしょう?
この映画でも、盲目の退役軍人フランクは見事にタンゴを踊り、高級石鹸の香りを嗅ぎ分けます。それは彼の日常にとって、実用的でも効率的でもありませんが、人格と人間性に厚みをもたらしています。人が人に惹かれたり、尊敬したりする要素は、そんなところにもあるはずです。