「ブロークバック・マウンテン」2005

kaoru11072006-11-03

これも遅ればせながらDVDでチェック。

いや、これは凄い作品です。
アカデミー作品賞を逃したことがニュースになったのも十分納得できます。
ポール・ハギスの「クラッシュ」もハイレベルな作品だと思いますが、これはその上を行っています。


1963年、ワイオミング州ブロークバック・マウンテンで、20歳のイニスとジャックは夏の放牧シーズンの羊番として出会う。対照的な性格のふたりだったが、苛酷な自然環境の中で仕事と生活を共にするうちにやがて打解け友情が生まれ、ある夜、肉体関係に発展する。仕事が終わって下山後にふたりは別れ、それぞれに別の土地で結婚し家庭をもつが、ブロークバックで過ごした日々の思い出が忘れられず再会。以後20年にわたって釣り旅行と称して逢瀬を重ねるが・・・。Wikipediaより)



何せ、男性による同性愛の“恋愛譚”です。
劇映画の素材としては当然キワモノです。

この映画が凄いのは、キワモノとして商業的価値を担保した上で、中身は思う存分、深く深くえぐり込んで描写していることです。

“恋愛譚”に留まることなく“人生譚”に至っています。
人生における普遍的な真実の断片を画面に焼き付けることに成功していると思います。


人は、自分以外の誰かに想いを寄せることなく生きることなどできはしない。
だから人生は楽しく面白く、また同時に辛く切ない・・・。
それは、同性愛だろうが何だろうが関係なく、人類に普遍的な“業”であり“輝き”であるということ。

そこから生じる重さ、哀しさ、切なさ、そしてほのかな希望と救いが、幾重にも幾重にも折り重ねられ、非常に知的で抑制の効いた描写で語られるラスト20分間。 私は画面から視線をそらすことができませんでした。


男2人の物語ですが、実はとりまく女性たちの描写が実に見事です。

彼らの妻を演じたアン・ハサウェイミシェル・ウィリアムズ。ラストで父親に結婚を告げる娘を演じたケイト・マーラ、酒場のウェイトレスを演じたリンダ・カーデリーニ。 皆本当に人生を生きているキャラクターでした。

人を恋うるという人生の真実を描き出すためには、男たちだけを掘り下げてもダメなのです。
脚本のラリー・マクマートリーとダイアナ・オサナ、そして台湾の監督アン・リーはそれを十二分に理解しているのでしょう。短い出番でも本当に深みのある描写です。女優たちの演技も素晴らしい。


勿論、主人公のヒース・レンジャーの、無口で不器用で人生をかみ締めるような演技が絶品であることは言を待ちません。



ジャックへの一途な感情により本来向き合うべき責任から逃げ続けて生きてきたイニスが、ジャックに生じた変化を受け止めた後、娘の最後の要望に何とか応えようとするラストシーン。

具体的な台詞としては何もテーマめいた言葉はないにもかかわらず、ズシリと心に響いてくるシーンでした。



日本映画もラブストーリーのオンパレードですが、ここまで深く人生を抉る作品には、なかなかお目にかかれません。
リメイクばやりでネタ切れが囁かれるハリウッドですが、その懐の深さと底力はさすがと思い知らされます。