「トゥモロー・ワールド」2006

kaoru11072006-11-26

ハリーポッターの3作目に抜擢されたメキシコ出身の新鋭監督、アルフォンソ・キュアロンの新作。きっと評価は分かれるし興行的にも難しいと思いますが、私は大いに感心しました。


2027年。新生児が誕生しなくなって18年。世界は厭世観に支配され暴力と無秩序が蔓延していた。英国は強固な警察国家となって秩序を保つが、不法移民の大量流入に伴い反政府活動テロが日常化していた。
無気力な中年官僚セオは、反政府組織に拉致された先で20年前に別れた妻ジュリアンと再会する。彼女は不法移民の解放活動のリーダーで、彼が役所に顔が利くのを見込んである人物の移送を依頼してきたのだった。
それは不法移民の少女だったが彼女は人類の希望と奇跡を孕んでいた。やがてセオは少女を守りながら決死の敵中突破を試みることになる…。



原作は結構長そうですが、映画化にあたって相当刈り込んであるようです。それは程よい簡潔さとなって成功していると思いますが、世界観のディティールをそぎ落としているので近未来SFの醍醐味を期待すると当て外れとなるでしょう。そこで評価は割れるはずです。

反政府組織や人類救済組織といったいわくありげな設定の謎が放置されてラストを迎えるなど、世界観を味わって謎解きしようと思うとこの映画は相当低い点数になると思います。
この映画の作者たちは、そのあたりには力点を置いていないのです。


世界観の設定は単に舞台装置であり、カメラはあくまで主人公の中年男の行動のみに絞って追いかけます。フィクションの中の彼の経験をそのまま観客に疑似体験させること。それがこの映画のすべてです。

ですのでこの映画、ビジュアルには膨大なエネルギーと知恵が投入されています。それは見事です。凄い臨場感です。


映画前半にある主人公たちの乗った車が襲撃されるシークェンス。後半に入ってからの主人公と少女が一夜を過ごす感動的なシーン。そしてクライマックスの8分間ノーカットの戦場シーン。
いずれももの凄いビジュアルを見せてくれます。私にはどうやって撮影したのかよくわかりません。CGも使っているのでしょうがまったくわかりませんでした。
これはお金を払って見る価値のある創作だと思いました。
こう書くと「プライベート・ライアン」を想起するでしょうが、また違った味わいの臨場感です。


ネタばれになるので伏せますが、ビジュアルに加えてきっちり心に迫る感動シーンも用意されていますし、ラストの切れ味と余韻もなかなかのもの。
私は高く評価します。

しかし、この映画、商売として考えると誰をターゲットにしたのかが「?」です。
物語の設定と筋立てはいかにもティーン向けの近未来SFですが、迫力のビジュアルはR指定が必要な迫真性に満ちていますし、前述のようにSF物語を楽しむにはシェイプし過ぎています。
実際には、出産育児経験者こそ感動できる戦場ものなのですが、そんなタイトなターゲット設定では大ヒットは望めません。

という訳で、冬休み・お正月向け大作が封切られる前にひっそりと興行を終えると思われます。

しかし、映画好きなら観て損はない意欲作です。
アルフォンソ・キュアロン、要注目です。