「史上最大の作戦」1962

20世紀フォックスの経営を立て直すヒットを記録した、最後のタイクーンと呼ばれるダリル・F・ザナック製作の戦争超大作。かつては誰もが知っていた映画ですが、若い人たちにはもう古典かもしれません。

近代以降の戦争という国家の総力をあげた衝突を、それぞれの国の立場からの語り口を重視して複眼的に組み立てて描くアプローチの先駆け。第二次世界大戦の連合国反抗の重要局面となった“Dデイ”(ノルマンディー上陸作戦)を描いた1962年の超大作。

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対立した国家相互の俳優とスタッフを起用してひとつの戦局を描写したのも初めてなら、英語・ドイツ語・フランス語で演じられたそれぞれの場面を吹き替えなしの字幕版で押し通した興行も初めて。
当時の各国大スターを勢揃いさせた豪華キャストで膨大な予算を投じたものの、それを回収してなお余りある世界的な大ヒットとなりました。

この作品の成功は、同じザナック製作の「トラ・トラ・トラ!」(1970)につながり、米英合作「遠すぎた橋」(1977)を生みました。
因みに、「トラ・トラ・トラ!」は、太平洋戦争の日米開戦、日本海軍による真珠湾奇襲攻撃に至る過程を日米双方の視点から描き出したアメリカ映画です。日本側スタッフとして黒澤明が起用され、脚本制作から撮影開始まで進んだものの、様々な事情から降板。プロジェクト自体が頓挫しかけたものの、舛田利雄と深作欣ニが後を継いで完成させたいわくつきの映画でした。


ノルマンディー上陸作戦は、「プライベート・ライアン」のモチーフともなった作戦です。CGを用いて残酷描写まで踏み込んだスピルバーグが印象を塗り替えてしまいましたが、それ以前は戦場映画の臨場感といえば、常に「史上最大の作戦」がスタンダードとしてとりあげられたものでした。

基本的には、米英軍のヒロイズムが基調に据えられるものの、ドイツ側の描写も通り一遍の敵役でなくフェアネスをもって描いていました。また、大小様々に盛り込まれるエピソードにも、単純な勧善懲悪などではない人間の心情の深みや不条理な思いがきちんと描かれ、質の高い複雑性を有した作品だったと思います。


硫黄島からの手紙」を反芻すればするほど、私にはこの映画の存在が非常に大きなものとして認識されてきました。40年以上前の「史上最大の作戦」のヒットがなかったならば、“硫黄島プロジェクト”がハリウッドで企画されることはなかっただろうと思います。
それほどに、この映画において採用された戦争映画の方法論はユニークだったと思うのです。
ダリル・F・ザナックという稀有なプロデューサーの存在を、改めて考えさせられます。

日本において映画プロデューサーとは、今どんな存在なのでしょうか。