「新幹線大爆破」1975
明けましておめでとうございます。一本調子の記事ばかりですが、覗いていただける皆さまの存在が嬉しくも心強いものと実感できた昨年でした。本年も何卒宜しくお願いいたします。
さて、新年の1本目は昭和50年の東映サスペンス大作。米国映画「スピード」や「交渉人 真下正義」の元ネタ的映画として知る人ぞ知るマニアックな人気作です。
洋画について記した日の方がコメントも多いのは重々承知なのですが、正月休みにじっくり鑑賞した作品が正直これのみでしたのでご勘弁ください。
ストーリーは単純明快。
1,500人の乗客を乗せた東京発の新幹線ひかり109号(当時のぞみは未だない)博多行きが発進直後、国鉄(当時は未だJRでない)に電話が入る。車両のどこかに爆弾が仕掛けられたというのだ。しかもその爆弾は時速80キロに加速した時点でスイッチが入り、再度80キロに減速された時点で爆発するようになっているという! 犯人の狙いは何か? 国鉄は万難を排してひかり109号をノンストップで走らせるが、終点の博多到着までに解決できなければ大惨事を引き起こしてしまうのだ。タイムリミットが定められた中で、犯人グループと国鉄、警察の三つ巴の葛藤が展開する。
当時としては豪華なキャスト。犯人グループの首謀者に高倉健、その妻に宇都宮雅代。共犯者に山本圭。国鉄の新幹線制御室の責任者に宇津井健、その上司に渡辺文雄と永井智雄。警察の対策本部に鈴木瑞穂と丹波哲郎、青木義朗ら。新幹線車中の運転士に千葉真一、車掌に竜雷太。その他、1カット程度のゲストに多岐川裕美や志穂美悦子。なかなか豪華な布陣ですが、公開当時は宣伝の拙さもあって興行的には大失敗だったようです。上映時間も2時間半以上ありますし…。
文句を言いたい部分は一杯あります。何と言っても物騒なプロットゆえに当時の国鉄から一切の協力が得られず、様々な工夫は盛られたものの、肝心の新幹線の映像がチープになっている点。そして、犯人:高倉健と新幹線制御室員:宇津井健は直接対峙しないながらも劇中のライバルなのですが、この二人を結んだ葛藤が構成されていないこと。また、乗客のパニック描写がややステロタイプに過ぎる点…。
それでも、この映画は実に面白い。決して洗練されていないし、突っ込みどころも多く欠点もあるのですが、面白いアイディアをしっかりと長編映画として物語ろうという意欲とエネルギーに満ちていて、愛すべき作品になっていると思います。
ネタばれは避けたいので、これ以上物語には言及しませんが、面白いサスペンスを観たい方には、巷の2時間ドラマを観るくらいなら、本作をレンタルされることをお薦めいたします。
オイルショック直後という当時の世相を反映して、本作の犯人像には不景気の中でつらい目をみている男たちのやりきれないドラマが背負わされています。そのあたりが、健さんの苦い表情と共に日本版フィルムノワールの風情を漂わせ、映画の厚みを生んでいます。
そして何より、“80キロ減速すると爆発”という物語の枷を、飽きさせることなく展開する描写のアイディアの連続は賞賛に値します。
因みに宇津井健という役者は、何を演じても宇津井健さんなのですが、この映画は本当に適役。クライマックスで彼は苦渋の決断をして、その結果職を辞する決断に至るのですが、この場面の説得力はこの役者ならではの味です。実に良質な職業人のドラマがありました。
この映画は、海外輸出にあたって犯人側のセンチメンタルな場面をざっくりとカットして2時間弱に短縮しています。その海外版を私は未見ですが、それはそれで徹底してドライなサスペンスとして面白いものらしいです。
- 出版社/メーカー: 東映ビデオ
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結局、今年も邦画、それもマニアックなものから切り込んでしまいました。この性分はなかなか変わらないと思います。