「パプリカ」2006

kaoru11072007-01-07

テアトル新宿にて、今敏監督の新作「パプリカ」を観てまいりました。
さすがは今敏。ハイクオリティの映像物語を魅せてくれました。


精神医療研究所で開発された他人の夢を共有できるテクノロジー“DCミニ”。それが何者かに盗まれ“夢のテロリズム”が研究所の関係者を襲い始める。
事件の解決に挑む、若く美しいセラピスト千葉敦子。彼女は極秘に精神治療を行う時に使うもうひとつの顔、キュートな夢探偵パプリカを持っていた。パプリカは狂ったイメージが氾濫する夢の中へと飛び込んでいくが、彼女を待っていたのは、目くるめく悪夢の奔流だった! パプリカは夢テロリストを阻むことができるのか?


筒井康隆の原作は未読ですが、本作は映画としてアニメーションとしての表現メディアの特性を活かして、その夢の奔流を克明に描くことに力点が置かれています。
そのテイストは極めて知的で官能的。観客の眼を90分間しっかりと画面に釘付けにしてくれます。ストーリー展開もアニメ描写も極めて大人向けなので、アニメとはいえ子どもにはお薦めいたしません。

物語に意外なオチが待っているとか、感動の涙があふれるとか、といった種類の感動を味わう映画ではありません。そういうものとは異なる、知的な映像体験の享受を楽しむ作品と認識します。


テーマが“夢”の共有、“夢”の侵略ですので、映画の多くの時間が“夢の中身のビジュアライズ”に費やされています。そこは作者のイマジネーションと、アニメ描写の画力・筆力が勝負となってきます。
その点ではきっちり及第点ではないでしょうか? ここに描き出された不可思議なイメージの奔流は、「もののけ姫」や「千と千尋の神隠し」を凌駕するに至っていると思います。まあ、世間はそういう評価はしないでしょうけど。
昨年「時をかける少女」と「パプリカ」の2作品を生み出したマッドハウスは、現在国内最高峰のアニメーションスタジオだと思います。もはやジブリの時代ではありません。


そうした夢の描写がこの映画の生命線なのですが、そのモチーフに一貫して用いられるのが古今東西の映画へのオマージュ。今敏作品の「千年女優」と兄弟のような関係に思えます。そしてそのことは、私に夢と映画の関係性をひどく考えさせるものでした。
110年ほど昔、リュミエール兄弟エジソンが映画の雛形を発明した時から、人類はこのテクノロジーを使って何をしようと試み続けたのか? それは、人間が見る“夢”を具象化することではなかったか、他人と共有する試みではなかったか。そして、不特定多数の他者がその“夢”を楽しむために、ギリシャ時代から連綿と続いてきた“演劇”というドラマトゥルギーを活用してきたのでしょう。
その意味で、この映画は人間の夢を描きながら、映画というメディア自体について自己言及するという、意図せざる二重構造を有していると思います。

そのように考えたとき、“夢”の存在を正面に見据えた映画には、なかなかユニークなものが多いです。
古くはダニー・ケイ主演の「虹を掴む男」。押井守の「うる星やつらビューティフル・ドリーマー」。黒澤明の「夢」はそのまんまですし…。
「パプリカ」に似たモチーフで公開間近の「悪夢探偵」(塚本晋也監督・松田龍平&hitomi主演)も、非常に面白そうです。

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悪夢探偵 (角川文庫)

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映画について考える行為は、殆ど夢について考えることと同義なのでしょう。そういえば、今年の初夢がどんなものだったのか、すっかり忘れてしまいましたが。
昔、遠藤周作のエッセイに書かれていたのですが、枕元に常に筆記具とノートを置いておき、目覚めたらすぐに見ていた夢の内容を書き留めることを繰り返していくと、それが習慣化して、自分の夢をかなりの部分まで描写することができるそうです。そんな話を読んだのは中1の頃で、何度か試みては定着せずに失敗してきました。今年あたり再開してみようか、などと思っています。

千年女優 [DVD]

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KON’S TONE?「千年女優」への道

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