「機動警察パトレイバー THE MOVIE」1989

菊池凛子さんの活躍で「バベル」が話題になっています。
で、そこから連想して思い出したのが、89年の押井守監督作品。とても良質な社会派エンタメ・アニメ。

機動警察パトレイバー 劇場版 [DVD]

機動警察パトレイバー 劇場版 [DVD]

ゆうきまさみ(漫画家)・伊藤正典(脚本家)・高田明美(漫画家・キャラデザイン)・出渕裕メカデザイナー)・押井守らで結成した“ヘッド・ギア”がメディアミックスで制作したアニメシリーズの劇場版。押井監督がやがて「攻殻機動隊」「イノセンス」とハードな路線に入っていく直前の、知的エンタティメントとして極めてバランスのよい作品になっていました。
本広克行監督が、この作品(マンガ・ビデオ・TV・映画で並行展開)に触発されて「踊る大捜査線」の演出テイストを定めたのは知る人ぞ知る話です。
所謂ロボット・アニメのジャンルでありながら、近未来の現実社会でいかにも考えられそうなメカ設定を行い、警察機構や社会現象をリアルに取り込んで、荒唐無稽とリアルドラマのボーダーラインを狙った作品世界。しかも、主人公たち“警視庁警備部・特殊車両2課”のチームとキャラクターがほのぼのと楽しく、また知的な切れ味に満ちていて、とっても素敵なのです。


で、この劇場版1作目はこんな物語。
近未来の東京。汎用人型機械“レイバー”(本作の有人操作ロボット)が一般の土木作業用に普及すると共に、それを悪用した犯罪も増加。警視庁もレイバー隊を導入、特殊車両課として編成していた。
その夏、都内では運転手の操縦を無視してレイバーが暴走する事故が多発。特車2課の面々も忙殺されていた。やがて無人のレイバーまで暴走するに至り、特車2課は操縦系統のOSに仕組まれたコンピュータ・ウイルスの存在に気づく。一体誰が、何の意図でウイルスを仕込んだのか? 
コンピュータ・ウイルスという当時としては先取りの社会問題を取り上げながら、映画はやがてバブル期の「東京」への考察という都市論にまで及ぶ、非常に知的でスリリングな展開へ。そして、台風の暴風雨がが東京湾を直撃する中、手に汗握るクライマックスが描かれる!


まだPC環境の普及黎明期といった89年当時としては、とても先見的なモチーフ。OSにウィルスを仕掛ける悪意の存在など、今日見てもまったく違和感がありません。
そして、ここに描かれた特異な犯罪者像、そこに込められた悪意の概念は極めてユニークです。
“エホバ下りてかの人々の建つる町と塔を観たまへり…。いざ我らくだり、かしこにて彼らの言葉を乱し、互いに言語を通ずることを得ざらしめん…。故にその名はバベルと呼ばれる…”(旧約聖書:創世記・第11章)
劇中に引用されたこの台詞が、深い意味をもって私たちの社会の危さを浮き彫りにします。

とはいえ、本作は難解な理屈に終始することなく、文句なしに楽しい娯楽作です。アニメなんか、と思わずに、騙されたと思ってお試しください。


因みに白状しますと、この作品の主要人物のひとり“後藤喜一隊長”は、私の理想の中年像でもあるのでした。



劇場版の2作目は、湾岸戦争体験を経て、現代日本における“戦争”をテーマに、より一層硬質で考え込ませる問題作になっています。現代の東京における戒厳令の映像化は、アニメーションだからこそ可能な表現でもあります。

機動警察パトレイバー2 the Movie [DVD]

機動警察パトレイバー2 the Movie [DVD]

BSアニメ夜話 (Vol.03) (キネ旬ムック)

BSアニメ夜話 (Vol.03) (キネ旬ムック)