COOLな愛すべきアクション 「トゥルー・ロマンス」

もう10数年前の映画ということになります。結構TV放映されているらしいですが、ずっと観る機会がありませんでした。
クウェンティン・タランティーノは面白いと思っても、なかなか好きになれずに来たのですが、最初にこれを観ておくべきでした。これは素敵です。聞けば、彼の処女脚本らしいですね。

トゥルー・ロマンス [DVD]

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監督はトニー・スコット。この監督のカッティングは、私の性分に合っているのでしょう、ひどく心地よく観られるのです。全編の雰囲気は監督の近作「ドミノ」に近いですが、脚本と俳優の魅力で明らかにこっちが優れています。


金に縁はないけれど気のいいコミックショップの店員クラレンスと新米コールガールのアラバマは、たった一夜の出会いで恋に落ち翌朝には結婚。彼女のしがらみを断とうと売春組織の元締めを急襲した彼は、偶然にも大量のコカインを持ち帰ってしまう。成り行き上一攫千金に動き出した二人を麻薬組織は追跡し、やがて密売に関わるハリウッドの大物やロス警察を巻き込んで、二人の運命を翻弄するバイオレンス・アクションが展開する。


主役の二人を演ずるクリスチャン・スレーターパトリシア・アークエットが非常に良いです。スレーターはこの作品以降も大作出演が続いて大スターですが、アークエットはさほどの活躍が見られません。でも彼女が本作で放つ魅力は本当にキュート。一晩で陥る運命の恋に説得力を与えてくれています。彼女の笑顔のためなら、悪の巣窟にでも拳銃ひとつで乗り込む男気にも納得です。

タランティーノ脚本らしくB級映画のマニアックさが全編に散りばめられ、その筋の観客はニヤリとしっ放しですが、当時の力関係もあったのでしょう、監督はそれらをスパイス程度に抑制して、ラブロマンス&バイオレンス&サスペンスアクションの本筋をテンポよく描いてくれています。ハンス・ジマーの音楽がまた、悲劇的な展開に楽天的なほのぼの感を対比させてくれて秀逸です。そうです。すべての構成要素のバランス感が心地よいのです。
この作品の前年にトニー・スコットの兄であるリドリー・スコットが、あの「テルマ&ルイーズ」を放っている訳です。似たようなモチーフの映画ですが、個人的にはこっちが好きだなぁ。おそらく映画史的に残るのは「テルマ・・・」でしょう。評価としては私もそうなりますが、好みはこっち。

プランナーのおちまさと氏は、本作のラストの展開が観客の予想を心地よく裏切る点を指して賞賛しています。それも成る程と思いますが、私の好きを刺激したのは、冒頭の15分。どうでもいいような偶然の出会い、些細な人生の接点であるにも関わらず一途な恋を告白するアークエット。何もかも最高だと答えて自分の好きなコミックの稀少本を見せてあげるスレーター。こいつらは何と素敵な愛すべきお馬鹿さんだろうと思います。


人間、一生の間には幾度か馬鹿なことをしでかすものだと思います。極端な場合は犯罪に走るでしょうし、そうでなくても、当たり前の人生の道筋にそれなりのリスクを背負わせる行動に走る衝動にかられるものです。大抵の常識ある人々は、それを押さえ込んで無難に無事に生きていく訳ですし、それによって得られる安定を幸福の形と定義することはできるでしょう。でも、無事と無難のボーダーラインを越えてみたくなる感情は誰にも秘められている訳で、私はそれを否定的になど扱えません。世のすべての映画の物語とは、そんなボーダーを越えることで動き出すのですから。
トゥルー・ロマンス」の主人公たちは、そんなボーダー越えをとってもキュートに魅せてくれるのです。私にとってはそれが冒頭の15分の魅力です。