大人の感涙ヒーローもの「スーパーマン・リターンズ」

kaoru11072007-02-18

“敬愛を込めて、この映画を故クリストファー・リーブに捧ぐ”

エンドロールの冒頭に記されたメッセージに、目頭が熱くなりました。


四半世紀も前の、リチャード・ドナー監督による「スーパーマン」は、正直あまり好きな映画ではありませんでした。故にこの米国最大のコミックヒーロー映画への思い入れは殆どありません。
でも、主役を演じたクリストファー・リーブの存在感と、彼のその後の苦闘の生涯には人間として感じるものがあったのは事実です。

約10年を費やした準備を経て、気鋭のブライアン・シンガーにプロットと演出を委ね、ブランドン・ラウスという納得の素材を得て生み出されたこの続編に、私は賞賛を惜しみません。
これだけの作品をもってリスペクトを与えられたのです。つらい人生を背負った故リーブにとっても、映画俳優冥利に尽きるのではないでしょうか?

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2時間半を超える大作、それもSFX満載のヒーローものですから、思い切りアミューズメント感に溢れた遊園地のような映画を想像しましたが、完全に裏切られました。それもよい意味で。
これはもう、初めてスーパーマンに触れる子どもたち世代のことは捨ててかかっているとしか思えません。ベタな説明台詞やこれみよがしなヒーローアクションは抑制されて、前作シリーズを経験した大人たちに語りかけています。それでも興行的に勝負できると考えたのでしょう。国民性の違いを考えさせられます。

ストーリーの本筋は極めつけの悪役レックス・ルーサーの復讐譚に置かれますが、軸となる情感描写は一貫して、大人の恋愛感情と、生活の現実および経過した時間との葛藤に置かれています。スーパーマンロイス・レインとの対話には恋だの愛だのはひと言も出てきませんが、きっちりと切ないラブストーリーを見せてくれています。
中盤のB777救出など、CGを安っぽく見せない画面設計でのど派手なアクションもきちんと盛り込まれていますので、物足りないことなどありませんが、私はこのラブストーリーにしっかりと惹かれました。

前作は、言いたくはないですが、ロイスが魅力的でなかったのが致命的だったと思っています。そこが完全に補完されていますので、今度は大丈夫。ケイト・ボスワースはキャリアを追ってきたホワイトカラー女性の、もう若くはない秘めた恋情を演じてとてもよかったと思います。
そして、ブランドン・ラウスの姿と表情。世界中の誰もが納得するキャスティングでしょう。制作者の私情とか様々な裏事情とか、「まあ、こんなもんだよね、映画の世界もさ」などと軽口を叩かれるような心配のないキャスティングというやつだと思います。

クライマックスは、おそらく聖書をベースにヒーローの苦闘と受難、そして復活をなぞっていると思いますが、宗教的教養のない私には十分は理解できていないと思います。それでも、力尽きたスーパーマンを市民が救おうと動く場面では、胸にこみ上げるものがありました。
このアメコミ最大のヒーローはわが国における“ウルトラマン”同様に善意の宇宙人なのですが、両者の絶対的な違いは、彼がメトロポリス市民であり合衆国国民であると認知される点にあるのです。だから彼は恋もしますし、倒れれば病院にも担ぎ込まれるのです。(実は、このあたりは、日本のウルトラマンでも描写に変化が生じてきているのですが、それについてはまた後日記したいと思います)。

いずれにしても、この良質で潔い大人向けのヒーロー映画は、私にはとても好感できるものでした。