私的に大切な“宝石” 「リトル・ロマンス」

kaoru11072007-03-05

1979年に試写会で鑑賞して以来、本当に久々の再見でした。
ずっと記憶の奥底に沈殿していた30年近く前の“大切な想い”の片鱗が、この映画と結びついていたことを思い出しました。まったく、記憶を呼び覚ますトリガーなんて、どこに転がっているかわからないものです。


ストーリーはご存知の方も多いでしょう。パリの片隅で出会った、ちょっと大人びた少年と少女の小さな恋心と冒険の物語。


図抜けて賢く映画マニアでもある13歳のパリの少年ダニエルは、裕福だがちょっと複雑なアメリカ家庭に育った、これまた知能指数の高い同い年の少女ローレンと出会う。ハイデッガーすら楽しんで読む知能と、それに伴う孤独に共感した2人は意気投合し、幼い恋心を育む。しかし、家庭の事情でローレンは急遽アメリカに帰国しなければならなくなって、2人はささやかな抵抗の家出を決意。偶然知り合った謎の老紳士ジュリアスから聞いたサンセット・キスの伝説・・・“ベニスのゴンドラに乗りながら、夕暮れの鐘が鳴る中、ためいきの橋の下でキスを交せば、その男女は永遠の愛を得る”の実現のため、小さな冒険を試みる・・・。


監督は、「明日に向かって撃て!」「スティング」等の快作を連発し、爽やかで面白い映画作りに脂の乗りきっていたジョージ・ロイ・ヒル。物語にぴったりの軽やかで優しいメロディーはジョルジュ・ドルリュー(本作は作曲賞のオスカーを獲得)。不思議な老人ジュリアスを茶目っ気たっぷりに演じた英国が世界に誇る名優ローレンス・オリビエ(!)。パリとベニスの生活感に根ざした美しい背景の中、彼らの粋なクリエイティブが活きている小さな宝石のような作品です。

でも、私にとっては何と言ってもこの映画、幼きヒロインを演じたダイアン・レインの存在に尽きます。
おそらく私の映画鑑賞歴の中で、最高のヒロインを選べと言われたら(そんなこと誰が言うのかわかりませんが)、迷わず本作の彼女になるでしょう。同時期に「テス」に主演したナスターシャ・キンスキーの完璧な美も絶賛ものですが、当時の個人的な様々な思いが投影されていることもあって、私的にはダイアン・レインがベストなのです。

ローレンは聡明で美しい少女ですが、その知能の高さ故に同世代の友人も殆どいません。その孤独を打ち明けるべき母親は、人は良いけどちょっと現実感の希薄な女性で、娘の心情を理解するのが難しい。結果、難解な書物を読み進めることを趣味としています。とはいえ、暗い影を背負うまでには至らず、世の中をシニカルに眺めて処世している思春期なのです。そんな彼女が、偶然出会ったダニエルに自分と同じ知性と孤独を感じたことで、物語が転がり始めます。それでも大それた出来事が起きるわけではありません、パリからベニスまで、何とか知恵を絞って国境を越えようとするほのぼのとした冒険の物語です。
そんなキャラクターを、スクリーン・デビューのダイアン・レインが知的に清潔感溢れるイメージで演じています。共演したオリビエ卿をして“グレース・ケリーの再来”と言わしめた逸話が残っていますが、それほどに本作の彼女は素晴らしいです。敢えて監督が長回しで撮影したラストの別れの場面における、彼女の素直な演技・素直な涙は世代を超えて共感できます。オリビエとのベンチのシーンは絶品です。

リトル・ロマンス [DVD]

リトル・ロマンス [DVD]

ことほど左様に、単純に眺めていても素敵な美少女だった訳ですが、当時の私は、スクリーンの彼女に、個人的な初恋のイメージをダブらせていたことを思い出しました。DVDで再見するまで、そのことをすっかり忘れていました。
あれは高校生の頃。何年生の時だが記憶は定かでありません。確か夏でした。偶然出くわした同い年くらいの美少女の姿、その白いワンピースの姿に心を動かされたことを憶えています。
具体的なエピソードがある訳ではありません。ただ、その少女のイメージに強い印象を覚えたという事実、それのみです。それは何故だか私にとって、10代の頃の初恋のイメージとして意識の底に定着していたのです。
そして、それを、何故だかはわかりませんが、18歳当時に観た本作の、ダイアン・レインに重ねて記憶に刻んでいたようなのです。理屈ではありません。まったく合理的な説明などできないのですが、当時の私の心理状態はそうだったのです。因みに、本作のダイアン・レインは白い衣装など着ていません。具体的な関連性はないのですから、私の内面の心理作用がそう働いた、というより他ありません。

だからこそ、ダイアン・レイン演ずるローレンは私にとって、永遠の初恋のイメージであり、生涯にわたって大切なヒロイン像になっているようなのです。


本作で世界的な名声を得たダイアン・レインでしたが、その後決して作品に恵まれてはいませんでした。巨匠といえる作家たちの作品に出演していきますが、なかなか人気とは無縁な時代が長く続きました。そして、もう若くはない時期になって、「パーフェクト・ストーム」(00年)「運命の女」(02年)「トスカーナの休日」(03年)と、その実年齢に相応しいリアリティある美しさと演技によって、その実力を再認識されつつあります。前述のように、私にとって大切な女優さんですので、それはそれで嬉しいことです。
さて、そうして未見だった「トスカーナの休日」を鑑賞した訳ですが、それについては改めて記したいと思います。