「ロング・キス・グッドナイト」

kaoru11072007-04-14

結局はB級大作扱いに落ち着くのでしょう、この映画。1996年レニー・ハーリン監督が当時の妻だったジーナ・デイビスをヒロインに撮ったアクション。シェーン・ブラックのオリジナル脚本には何と400万ドルが支払われたとか。
サスペンスアクションとしては及第点の面白さ。先の展開も読みにくいので、退屈などいっさいなく堪能できます。爆発大好きのハーリンらしく、クライマックスの大爆発もお見事。ストレス解消には丁度よいのではないでしょうか。
殆どの方にとって、この映画はそれ以上でもそれ以下でもなく、いつの間にか記憶から薄れていくタイプの作品だと思います。


私が本作を観たのは公開からずっと後だったのですが、その頃の私の状態はいろんな意味でサイアクでした。所謂ダウナーな時期でした。何の根拠もないはずなのに、自分と世界の関わり方にひどく自信を失っていた時期でした。
その状態では映画を受けとめるエナジーも乏しい訳で、主人公たちの力強さや幸福を素直に見つめることができません。そんな気分の中で観たのが本作だったのでした。



記憶喪失の過去を抱えながらも優しい夫と可愛い娘に囲まれて暮らしていた主婦サマンサ(ジーナ・デイヴィス)は、身に覚えのない襲撃を受ける中で自分に秘められたスキルを見出した。安全確保と自分探しのために、冴えない探偵ミッチ(サミュエル・L・ジャクソン)とともに旅に出る。やがて明らかになるサマンサの過去、よみがえる記憶。その裏側に存在する巨悪はサマンサの存在を抹殺すべく動き出した・・・。

気さくで優しくて母性にあふれた主婦サマンサと、スラングを吐きながらタフでハードな人生を送るもうひとりのサマンサ。この落差の大きな二つのキャラクター(やがて第三のキャラクターが生まれる・・・)をまなざしひとつで演じ分けるジーナ・デイビスが最高でした。
冒頭のキッチンのシーン。ぶきっちょだと思い込んでいた彼女が不意に猛烈な勢いと正確さで野菜を刻みだすシーンがあります。ここは最高。サマンサの人柄と過去を匂わせて愛すべき描写になっていました。
大柄で決して美人とはいえない女優ですが、この映画の彼女の魅力的なこと。巷では「テルマ&ルイーズ」が彼女の代表作なのでしょうが、私的にはこっちで決まりです。


ネタばれは避けたいのでこれ以上ストーリーには触れませんが、ヒロインが幼い娘に与える決めセリフがあります。
“生きるって、辛いの。でも耐えなさい”
これが中盤とクライマックスとでうまく効いてくる構成になっている訳ですが、当時の私のメンタリティに、ストレートに届くセリフでもありました。
その感覚はうまく表現できません。言葉にした時点で嘘になりそうです。ただ、このセリフを大切に噛みしめたことだけは確かでした。


映画に限らず、文芸や芸術の体験は、作品自体の質量のみでなく、鑑賞する側のコンディションとの相互作用で成立します。その意味で、私にとってこの映画はかけがえのない1本なのです。したがって、ジーナ・デイビスは忘れがたいヒロイン像でもある訳です。

ロング・キス・グッドナイト [DVD]

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人生は確かに辛いです。世界は容易に微笑んでなどくれません。でも絶望してしまうには、あまりにも勿体なさすぎる。耐えて誠実に向き合っている限り、素敵な光が見つけられると思うからです。事実、そうでした。今私は少しは元気になっています。