「007/カジノ・ロワイヤル」2006

kaoru11072007-07-15

昨年末に贔屓の引き倒しの日記を記しています。
http://d.hatena.ne.jp/kaoru1107/20061229
写真はすべて C)2006 Sony Pictures Entertainment (J) Inc. All Rights Reserved.
DVDで再見しても評価に変化はありません。最高・最良・最善のボンド映画をリアルタイムで体験できます。本作のプロデュースはマイケル・G・ウィルソンとバーバラ・ブロッコリ。バーバラは、第1作「ドクター・ノオ」(1962)からずっと制作を担ってきたアルバート・R・ブロッコリの娘。親の世代の業績を受け継いだ上で新時代にリファインする仕事の、まさにお手本と言えるでしょう。ボンド映画という定番の設定枠は維持していながら、素材も味付けも舌触りも新たなものにしています。しかも品質は格段に向上させていながら、これは紛れもない定番商品の味わいなのです。ブランド価値の維持・管理をする仕事のお手本かもしれません。
展開はかなり原作に忠実です。東西冷戦が遠い過去になりつつある現在、テロ組織の資金源に切り込むというモチーフはそれなりにリアリティを持ちます。そこからポーカーに飛ぶところがボンド映画らしいのですが。それでも、冒頭の“バルクール”を活かした超弩級スタントシーンから、航空機爆破テロ攻防戦、そしてカジノでの心理戦と、きっちり因果関係を押さえながら物語る誠実さが好ましいです。かつてのボンド映画は、本筋と無関係なスパイス的アクションで見た目を飾る安っぽさがありましたので。

難点を挙げれば、ラストの展開の謎が絵的には説明不足と見える点でしょうか。今回再見してみると、台詞で何とか説明をつけていることがわかりましたが、あと数分を費やして、ヒロイン:ヴェスパー・リンドのとった行動を描写してくれたら親切だったかと思います。

悲劇のヒロインを演じたエヴァ・グリーン。知的で複雑な役柄をこなしていますが、わかりやすい華に乏しいのか人気上昇とまではいかないようで、残念ではあります。気になるといえば少しメイクが濃いんですよね。勿体無い感じです。ですので、彼女が際立つのはノーメイクの2つのシーンなのです。
ひとつは、カジノの勝負に乗り込もうとする2人の身支度シーン。すっぴんのグリーン嬢のメイク姿は本当に美しく描写されています。このシーンで、彼女はボンドにブリオー二のタキシードを着るように渡します。サイズなど測った憶えはないと問うボンドに、「目でサイズを測ったの」と言い放つのが粋。
そして極め付がCMにもあったシャワーシーン。アクシデントに遭遇したボンドとグリーン嬢は、暴漢を殺害せざるを得なくなります。始末を終えてホテルの部屋に戻ったボンドの目に割れたワイングラスが映り、シャワーの音が聞こえます。彼女の姿は見えない。危険を感じたボンドがバスルームを開けると、初めての恐怖に怯え、ドレスのままシャワーを浴びてしゃがみこんだ彼女がいました。着衣のままで寄り添い一緒にシャワーを浴びてやるボンドの手が、少しだけ湯温を上げる・・・。最高のラブシーンです。

いずれにしても、ダニエル・クレイグによるNewボンドのデビューは大成功。次回作も準備中であり、映画好きの楽しみがひとつ再生されました。こういう仕事は見習ってきたいものです。