「駅 STATION」1981

kaoru11072007-08-07

名TVドラマライター倉本總が高倉健のために書き下ろしたオリジナルシナリオ。美しく厳しい北海道の四季を背景に、オリンピック射撃代表経験ある若くはない警察官と関わった人々との苦く切ないエピソードを連ねた作品。突き放した叙情とでもいうような、大人の視点の映画となっています。

倉本シナリオは画面を直接説明するような台詞やナレーションが注意深く除かれ、両者がずれたり対峙したりしながら観る者のイメージを複雑に広げていく味わいが特徴です。ナレーションの妙味が目立つTVドラマと異なり、この特徴が非常に際立っています。
この特徴は、倉本總のキャリアの出発点がラジオドラマにあったことにもよります。最も聴覚を意識した脚本家のひとりなのです。

加えて、降旗康男監督の演出は上映時間の関係もあってかシナリオの末端をさらに刈り込んでいるために、さらに省略が進み、よりベタつかないクールな仕上がりになっていたと思います。

映画は大きく3部構成となっていて、高倉健演ずる主人公の刑事(三上)が深く関わる3人の女性の名前が冠されています。各部はそれぞれ前エピソードの数年後の時を刻みながら、中期的な時の流れのドラマを描きます。

【第一部 直子】
三上は妻・直子(いしだあゆみ)の犯した過ちが許せず、別居することになる。独りになって射撃と職務に打ち込む彼の先輩刑事である教官が射殺される事件に直面する・・・。

【第二部 すず子】
連続女性暴行殺人の容疑者を追う三上は、容疑者の妹すず子(烏丸せつ子)をマークする。何とも愚鈍な印象の彼女は兄をかばっているのか、それとも・・・。

【第三部 桐子】
腕前に任せ容疑者を撃つことに迷い辞職を考える三上は、小さな小料理屋を営む桐子と出会う。互いの想いが深まりかけた時、ひとりの男の影が二人の運命を動かす・・・。

駅 STATION [DVD]

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それぞれのエピソードに事細かな説明はなく、大小様々なエピソードが淡々と連なっていく構成です。しかし、次章に進むうちに、過去のエピソードが別の意味を持って見え始めたり、別の形をして立ち返ってきたりする深みのある展開をします。その大人のテイストは、最近の日本映画にはないものだと思います。

そして、各章に非常に印象的な画面や言葉、そして歌があり、観客の心象に焼きついていきます。

例えば、作品冒頭、雪のホームでの三上と直子の別れのシーン。殆ど台詞のない数分間のいしだあゆみの演技。動き始めた列車から顔を出しおどけて敬礼をしてみせる彼女の泣き笑いの表情の瞬間。何行もの台詞を重ねるよりも遙かに遙かに心を動かすマイムというものがあると思わせます。

例えば、三上と桐子が店のカウンターで大晦日の晩を過ごすシーン。二人の対話は淡々とした世間話レベル。それでも想いが重なっていくことが伝わってくる。店内の小さなテレビから流れる紅白歌合戦八代亜紀の「舟歌」のフルコーラス。それをバックに三上の記憶がフラッシュバックする。ひとことの説明もないのに、中年男女の心情が手にとるようにわかります。

こうした、大人の映画が、最近は随分少なくなった気がします。


作詞家阿久悠が、70歳の生涯を終えました。
私の思春期から青年期に印象に残る“歌謡曲”を創作した天才でした。
この「駅 STATION」を名作たらしめているのも名曲「舟歌」でありました。

所謂“J-POP”は確かに耳に心地は良いですが、歌詞の印象が残らないのは私が歳をとったからでしょうか? 昭和の終焉と共に消えていった“歌謡曲”の歌詞には、明らかにドラマが盛り込まれていました。


阿久悠作品で何が好きだと問われたならば、これはもう散々迷ってしまいます。
「街の灯り」1973 堺正章
あの鐘を鳴らすのはあなた」1972 和田アキ子
「青春時代」1976 森田公一とトップギャラン
「思秋期」1977 岩崎宏美
「時の過ぎゆくままに」1975 沢田研二
「真っ赤なスカーフ」1974 ささきいさお 

散々迷ったあげく「五番街のマリーへ」1973 ペドロ&カプリシャスをベストに推します。


五番街へ行ったならば マリーの家へ行き
どんなくらししているのか 見て来てほしい

五番街は古い町で 昔からの人が
きっと住んでいると思う たずねてほしい

マリーという娘と遠い昔にくらし 悲しい思いをさせた
それだけが気がかり

五番街でうわさをきいて もしも嫁に行って
今がとてもしあわせなら 寄らずにほしい

(c)1973by日音

五番街のマリーへ

五番街のマリーへ