「戦場のアリア」2005

kaoru11072007-09-03

何の予備知識もなくDVD鑑賞。成る程、05年の仏観客動員数一位も頷けました。
それなりに突っ込みどころや弱点はありますが、しっかりと心を打つ爽やかな甘美さに辛口の現実感をブレンドし、第一次大戦の前線に闘った兵士たちへの誠意とオマージュを込めた誠実な映画です。

第一次大戦のフランス北部の前線。占領中の独軍に対峙する仏・スコットランド連合軍。両者は膠着状態のままクリスマスシーズンを迎えつつあった。そんな折、独軍の現場に派兵されていたテノール歌手シュプリンクの妻アナ・ソレンセンは、前線の夫に会いたい一心で皇太子に現地慰問を申し出る。一兵卒としての日々を経験した夫は、暖かな部屋でシャンパンを楽しむ幹部連中相手ではなく、寒さに震える前線でこそ歌いたいと妻を伴い現場に向かう。
仏軍、独軍スコットランド軍それぞれの部隊がノーマンズランドを中心に向き合う前線のクリスマスイブの夜。スコットランド軍のバグパイプとシュプリンクの歌声の重なりをきっかけに、それぞれの司令官が歩み寄り一晩の休戦が約される。それは単なる休戦のみならず、聖夜の独特の空気の中、各軍の兵士達が短期間ながら人間的に交流してしまうこととなった・・・。

一見、ダイアン・クルーガー演ずるアナが主人公という見かけを持っていますが、それは違うのだとすぐに気づかされます。
何せ、アナが聖夜の前線でアリアを歌う(それもあからさまな吹き替え!)シーンは、映画中盤の手前あたりで展開してしまいます。そのシーンは確かにクライマックスのひとつではありますが、大して感動を呼ぶものではありません。
彼女の役は、あくまで3軍の兵士を結びつけるきっかけに過ぎないのです。事実、このオペラ歌手夫婦の顛末は何とも納まりの悪いものになっています。

本作の真の主役は、ギヨーム・カネ演ずる仏軍の指揮官、ダニエル・ブリューム演ずる独軍指揮官、ゲイリー・ルイス演ずるスコットランド軍で兵士をケアする司祭の3人なのです。
彼らは、現場で生じた人間的なアクシデントを機に、それぞれの部下(生きるもの、死せるもの共に)のために、クリスマスの休戦と交流にのめり込んで行きます。

第一次大戦のヨーロッパの前線で散見されたという実話に基づく、この敵味方の交流場面の微笑ましさと甘さにはとても惹かれてしまいます。おそらくは甘すぎる感覚なのだと思います。
監督のクリスチャン・カリオンも、さすがにそんな人類の理想場面だけで物語ることは潔しとはしていません。肉親を殺された怨念を捨てきれず、休戦交流の輪に加われない兵士の姿も忘れずに配置しています。

この3軍の交流がどのような結果を生んでいくか、が本作の本当のクライマックス。
一旦、顔を突き合わせ、同じ神を讃え、人間的な交流の時間を持ってしまった人間同士は、もはや銃口を向け合うことは不可能です。それが彼らの運命をどう左右してしまうことになるのか、その辛口のラストに向けての展開は、人間の生き方への絶望にも根ざしています。

それでも、本作が歌い上げたかった人間の理想には、素直に共感したいと思います。こうしたエピソードが現実に存在したのだという歴史は、やはり救いだと思うのです。

しかしながら、ここに描かれる兵士の対立は、同じ神を讃える文化にあるというベースによって曖昧になる訳ですが、これが異なる神を讃える異民族間の対立では、どのような夢が描けるのでしょうか? そこが気になるところです。

写真はすべてSonyPicturesClassics/Photofest/MediaVastJapan