「飛べ!フェニックス」1965

kaoru11072007-10-30

ロバート・アルドリッチ監督作品で私にとって真にリアルタイムなのは遺作である「カリフォルニア・ドールズ」1981なのですが、ディスクも未発売でして記憶が曖昧。そこでこちらを記すことにします。(「C.ドールズ」は本当に傑作なのですが、どうしてDVD化されないのか大いに不満です。)

1965と少し古めの作品ですが、DVDの画質・色調はかなりクリアです。まったく古びた印象がありません。主役がジェームズ・スチュアートなので時代を感じますが、この方は若い頃から中高年まで殆ど印象が変わらない俳優なのでそれほどでもありません。加えて、物語の舞台はアフリカ・サハラに限定された1シチュエーションものなので、時代の風俗の影響が極小です。なので、心理的な身構えも不要なのでお薦めです。

アルドリッチ作品らしく極限状態に置かれた男たちの葛藤物語。
石油会社の定期便の中型飛行機がサハラ砂漠上空で故障し不時着した。生存者は12名、飛行機は大破した。砂漠の真只中に取り残された男たちは当座の水と食料を分け合いながら脱出策を練る。操縦士のフランク(ジェームズ・スチュアート)は、航空士のルー(リチャード・アッテンボロ−−)と共に皆をリードしようとするが、英国軍大尉ハリスとの対立やストレスに参ってしまう乗客らとの齟齬もあってうまくいかず、無為の内に死者も出てしまう。
そんな中、偏屈な若い飛行機デザイナーのハインリッヒ(ハーディー・クリューガー)が、全員の力を使えば大破した機体を新たな小型機に組み立てなおすことが可能と主張する。しかし反感も手伝って誇大妄想的なアイディアと皆は相手にしない。やがて原住部族の襲来もあって万策尽きた男たちは、一か八かハインリッヒのアイディアに賭けてみるしかなくなった。反目しあってた男たちは知恵と体力をすべて注いで、何とか“フェニックス号”と名づけた緊急避難機体を作り上げる。
いよいよ完成間近のタイミングで、ハインリッヒを労い談笑していたフランクは、この若き飛行機デザイナーの意外な事実を知って凍りつく。果たしてフェニックス号は飛びたてるのか・・・。

まるで舞台劇のように、限られた状況に缶詰にされた男たちの行き違いと反目のドラマが展開します。暑苦しい葛藤劇なのですが、舞台が強い日差しのだだっ広い砂漠の真ん中ですし、大破した飛行機の機体を様々な角度で背景や大道具にしていますので、画面が単調になることもなく、熟練の演出で飽きさせません。こんな男たちの状況劇を作らせたらアルドリッチは第一人者です。
そして、大きな飛行機の機体から、小さな単発機を作るのだ、とH.クリューガーが主張し出してから俄然面白い展開になっていきます。その工程の面白さと説得力もなかなかのもの。そして、最後に心理的な危機感が襲うプロットのユニークさも最高。ぜひ、ネタばれなしで観ていただきたい作品です。

アルドリッチの作品が暴力的でありながら、ロマンティックでもあるのは、常に正論や合理性を超越した馬鹿げた情熱への傾倒があるからだろうと思っています。本作も、大破した機体を自分たちの手作業で組み立てなおせないか? という“馬鹿げたアイディア”に本気で取り組むプロットです。誤解を恐れずに言うならば、そういう情熱こそが男の精神性の根本だろうと思っています。
勿論、それは女性にもありますので、私は差別主義者ではありません。アルドリッチの遺作「C.ドールズ」は女子プロレスの物語であり、それはヒロインたちの情熱でもありましたから。


組織で仕事をしていると、どうしても合理的な正論の積み重ねによって物事が進んでいきます。
正しいことにはなかなか逆らえないのですが、正しければ人は元気になるかと言えば、私は否と思っています。いや、だから誤るべきなどと言っている訳ではありません。正論よりも情熱、間違っていないことよりも面白いかどうか、私たちは自分たちの価値基準がどのへんに置いてあるのかについて自覚しなければいけないような気がします。
本作においても、皆が正論にのみ従っていれば、全員が死を迎えるしかない訳です。“賭けてみたい”と思わせるには、正しければよい訳ではない、と言っておきたいものです。