「300 スリーハンドレット」2007

kaoru11072007-11-04

アクション映画としての面白さは図抜けていると思います。そして残酷な描写がこれでもかと詰め込まれているにも関わらず、画面の美しさが強く印象に残ります。その意味でとっても完成度が高い映画です。私はまったく飽きません。素晴らしかった。
しかし、本作は優れた映画として語られ続けることはないでしょう。難しいものです。そして残念です。

フランク・ミラーグラフィックノベルは未見。ペルシャ戦争のテルモビュライの戦いという史実を下敷きにしながら時代考証を意図的に無視しています。その制作意図、演出意図は極めてシンプル。スタイリッシュで手に汗握る“男の戦闘アクション”を創り出そうというもの。監督ザック・スナイダーのセンスは本物だと思います。見事なビジュアルをもって製作意図は完遂されています。

物語は簡潔簡明。
独特のマッチョイズムと民主的な空気が醸成されたギリシャの小国スパルタに、大国ペルシャの王クセルクセスが支配下に入れと使者を送る。スパルタ王レオニダスは躊躇せず使者を倒し独立を貫く決意を固める。しかし国法に基づく神託は戦争回避であり公式な軍令は下せない。苦慮したレオニダスは精鋭の兵300名のみを自ら率いて小規模かつ非公式な迎撃に向かう。敵の軍勢は100万。鍛えに鍛えられたスパルタの精鋭たちは、圧倒的な不利を承知でペルシャ軍の圧力を食い止め続ける。しかし、その奮闘も永遠とはいかず、やがて300の男たちの生命は・・・。しかし、その勇気ある闘いの事実はその後の歴史を動かしていく・・・。

300: The Art of the Film

300: The Art of the Film

CGを自由自在に使いこなす画面設計が、これほどの美しさと力強さと興奮を与えうるのだということを、本作はわかりやすく伝えます。軍勢同士のぶつかり合いでありながら、観客に個々のスパルタ兵のアクションを正確に見せてくれるという演出の誠意がまず見事。スーパースローをふんだんに使うことで300の兵が100万の軍勢を撃退しうるかもしれないという感情移入を容易にしてくれます。そして、史実と時代考証を無視して半裸の装甲にするなど、画面の美しさに徹する姿勢は潔しです。デザイン的な工夫は圧倒的な成果を収めていると私は思います。

しかし、これだけ見事な作品でありながら、冒頭で記したように本作の評価と人気は限定的なものにならざるを得ないでしょう。それは民族・人種と身体的ハンディへの偏見助長し得ない描写が一貫して存在する部分によります。
特に身体が異形なるものがことごとく醜悪であり精神的にも邪悪な存在として描写されている事実は、どうしても社会的な目線として引っ掛かってこざるを得ません。ある重要なキャラクターにおいては異形なる身体にも栄光ある精神を宿らせうるという可能性を有しながら、結局は暗黒面に堕してしまうという描写に至ります。娯楽映画としての展開として間違いではないのですが・・・。
私は作者を批判する積りはありません。本作の描写は大いにディフォルメされたお伽噺的なものですし、紀元前の世界においては異形のものの捉え方として当然の目線でもあった訳で。それを現代の人権感覚で描写することは偽善でしかありませんから。しかし、この問題をもって本作への批判があることも素直に受け止めるべきとも思います。

300<スリーハンドレッド>特別版(2枚組) [DVD]

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さあ、そんな問題を承知した上でも、本作のラストシーンのメッセージは、私は大切だと思っています。たった300の兵が100万の圧倒的軍勢に立ち向かった事実の重み。彼らが何を大切に思い、何を守り貫くためにそうしたのかという魂の問題。それは人間の歴史における普遍的な価値であるという素直なメッセージはやはり大事なのだと思います。
かつて日本において特攻兵器に自ら乗り込んだ男たちがいました。私たちはずっと彼らは愚かな為政者の犠牲として犬死したとだけ語られ教えられてきました。そのような部分もあったでしょうが、それでも彼らの魂の中には、このスパルタ兵たちと同じ魂は宿っていたと私は信じています。