「妻は告白する」1961

kaoru11072007-11-10

かつて大映がつるべ打ちした“監督:増村保造&主演:若尾文子”作品群の代表作。
TSUTAYAの邦画コーナーに増村作品がずらっと並んでいることに意外な嬉しさを感じています。好きなんです、増村保造。リアルタイムで接したのは高校時代に観た「曽根崎心中」。人形浄瑠璃の世界をロックギターの旋律に載せ、生きた俳優(梶芽衣子&宇崎竜堂)に演じさせた孤高の傑作でした。それから旧作に遡って観るほどに、増村作品にどんどん魅了されていったのでした。

増村映画の特徴は明確で、同時代に類似品が殆どありません。人間の心の奥底に潜む激しい情念の物語を、ドライでデフォルメの効いた演技と台詞回しでグイグイ魅せていきます。描かれているのは極めてウェットでドロドロの心情でありまながら、表現は切れ味鋭くキッパリ・サッパリしています。その独特のギャップ感が、観るものに何ともいえない昂揚感と悩ましさを与えます。何より、芸術性を担保しながら大映プログラムピクチャーの屋台骨を支える商業価値を常に保持したことには敬服します。


この「妻は告白する」は傑作群の中でも真打ちと言える出来栄え。殊に情念の女優:若尾文子の最高作でもあり、91分のコンパクトな上映時間に一分の隙もありません。

内容はごく有名なプロット。横暴な夫(小沢栄太郎)との険悪な生活に倦んでいた若妻(若尾)は夫の仕事関係者の若い男(川口浩)に想いを寄せることで自分を支えていた。その三人が山登り途中で滑落。若い男の支えるザイルに妻と夫がぶら下がる絶体絶命の状況に陥った結果、妻は夫につながるザイルを切った。夫は死に、妻と男は助かった。果たして妻には夫に対する明確な殺意があったのか? 注目の裁判が進む中、妻と男の心情が揺れ動いていく・・・。

裁判劇として展開しながらも物語の焦眉は次第にそこから離れ、ひとりの女の情念と狂気の行方にシフトしていきます。すべての芸達者な役者たちがどんどん脇に回り、若尾文子演ずる妻の表情と仕草から目が離せなくなっていくのです。その演出プランを全身全霊で受けとめた、若尾文子生涯最高の演技がそこにあります。故黒川紀章氏の夫人としての認知しか若い方にはないと思いますが、凄い女優だったのです・・・。

特にクライマックスのワンショット。思いつめて男の勤務先を訪ねる彼女のビジュアルの凄さと素晴らしさ。生涯忘れられない名シーンです。女性の、否、人間のグロテスクさと愚かさと可愛らしさと切なさが、台詞もナレーションも皆無なモノクロシーンに凝縮されています。これは、凄いとしか言えません。
若尾文子ファム・ファタールは、脚本:新藤兼人&監督:川島雄三の傑作「しとやかな獣」でも全開しますが、いじらしいほどの可愛らしさまで漂わせた凄みは本作が上だと思うのです。増村作品は人間勉強のテキスト群です。私にとっては紛れもなくそうなのです。
写真はすべて(c)角川大映