「アイ・アム・レジェンド」2007

kaoru11072007-12-15

ひょんなことから公開直後に劇場鑑賞して来ました。TVCMを何度か見た以上の予備知識なし。どんな映画だろうかと思いましたが、多額の予算を投下したビジュアルの見応えで面白く観ることができました。中高生諸君の冬休み用娯楽作としては良い出来ではないでしょうか。・・・でも、それだけと言えばそれだけで・・・。

画期的な悪性ガン治療薬が開発され臨床に使用されるが、それは驚異的な感染力と影響力を持つ最悪のウィルスと化しNY市に蔓延。やがて爆発的に感染していった。世界がどこまで滅びたのかは明確でないが、少なくとも廃墟と化したNYに健康な人類は主人公ひとりだけになった・・・。ウィル・スミス演ずるそんな男のサバイバルの物語。


原作はリチャード・マシスン。かつてスピルバーグ出世作「激突!」の原作を書いた人でもあります。未読なので何とも言えませんが、相当詳細の背景設定や経緯説明が記されているのではないかと思います。しかし映画を観る限り、それらはざっくりと割愛されています。ビジュアルのインパクト重視で筋を運ぶリズムを優先したゆえでしょう。テンポよい娯楽作としては正解だと思います。実際飽きません。各シーンから背景を推測していくのも一興。
ただ、その分、映画世界の奥行きは浅くなってしまいました。目で見えるもの以外に注力しない、つまり見えないものを描こうとする姿勢が弱い感じがするのです。だから観終わっていろんな突込みどころが頭をよぎってしまう・・・。世界に独りだけの人間がほぼライフラインに困らないのは何故? 確かに自家発電装置のワンカットは挿入されているけれど、その程度であれだけの生活と研究のためのエネルギーと水が常時供給される秘密は何? などと思ってしまいます。まあそれも瑣末なことではありますが。

アイ・アム・レジェンド (ハヤカワ文庫NV)

アイ・アム・レジェンド (ハヤカワ文庫NV)


私は本作を“絶対の孤独”をテーマとした映画だと思ったのですね。思い違いでした。
世界にたった一人の生存者となった人間が、その後の人生という長い時間をどう生きていくのか、その物理的かつ精神的サバイバルを見るのだと、と思い込んだ訳です。それは物語の第一の転換点あたりで、すっかり裏切られてしまいました。いや、こっちが勝手に思い込んだ訳ですからそれは言い過ぎ。
要するに、こういう設定で物語を紡ぐと、米国人はヒーローとリビング・デッド或いはヴァンパイアとの闘いに帰結させていく傾向にあります。成る程その方がビジュアルは派手だし対立関係が構築しやすい。うん、このほうがお客は入ります。確実に。

私が日本の創作で、こうしたSF設定で“絶対の孤独”を見たものは、手塚治虫の「火の鳥・未来編」と、小松左京の「復活の日」。この2作が圧倒的でした。ウィルス感染による人類の危機というモチーフとして、本作の類似作は小松左京の原作を深作欣二が監督した「復活の日」1980になるでしょう。
例えば、ワシントンから南極までの距離を長い時間をかけて歩き続けた「復活の日」の主人公:吉住(草刈正雄)のビジュアル・イメージ。CGをふんだんに用いた贅沢なびっくり映像こそありませんが、たった独りで生きること、それが神の提示した運命に抗うことでもあること、をきっちりと語ってくれました。

復活の日 (ハルキ文庫)

復活の日 (ハルキ文庫)

復活の日 [DVD]

復活の日 [DVD]

本作には、その人間存在の絶対地点に対する思考が殆どないのです。そこがわたし的には残念。確かにウィル・スミスが神を否定するセリフを力説するシーンなど、米国民にはインパクトがあるのでしょうが、どうも紋切り型というか、底が浅く聞こえてしまうのですね。そんなことを考えようとすると、もう後半は獰猛な“感染者”の群れとのバトルシーンで手に汗握ろうという展開に入りますので、思考停止・・・。


しかし、あくまでこれは娯楽映画。廃墟と化した現代のNYのイメージは見応え十分。ウィル・スミスは相変わらずリズム感のある好ましい芝居を見せてくれていて、損をした気にはなりません。大丈夫です。
ひとまず新作の感想でした。