「阿片戦争」1943

kaoru11072008-02-02


京橋の国立近代美術館フィルムセンターにてマキノ雅広特集が組まれています。太平洋戦争真っ最中の昭和18年公開の大作「阿片戦争」を観てきました。

いわゆるコスチュームプレイの形式です。登場人物は中国人と英国人しかいない訳で舞台は広東。それでもすべて日本の俳優と日本語で演じます。現代日本の感覚では非常に違和感があるのですが、当時としては格別変だという感覚ではなかったでしょうし、ハリウッドでは今でも他国の物語を平然と英語劇にしている訳ですからそれをことさら語る必要はないでしょう。
主演の市川猿之助がアヘンを取り締まる林則徐を演じます。英国の敵役は青山杉作ら。中英の確執の狭間で翻弄される貧しい姉妹で原節子高峰秀子が登場。この2年後に広島で命を絶たれる丸山定夫も出演していました。脚本は小国英雄ですがノンクレジットで黒澤明も参加していたそうです。

戦中の国威発揚映画という立場にあった映画です。戦前のハリウッド映画のアクションを手本にしながら、大英帝国の横暴とそれを耐え忍びながら筋を通そうとする中国官吏の意地を描いています。さすがに画質音質の劣化がひどく観賞に集中を要しますが、なかなか立派な風格の作品でした。クライマックスの舞踏会に絢爛な娯楽映画の手際を見せた直後に、円谷英二の手による砲撃と大火災のスペクタクルを対比させ、エンディングへの見応えはしっかりしたものです。戦中の映画を観た経験は少ないですが、勉強になりました。

それにしても当時の原節子高峰秀子の可憐さ綺麗さは格別のものがあります。“デコちゃん”は比較的近年までメディアで語られることも少なくなかった訳ですが、原節子さんはどうされているのでしょうか? そこまで存在を消してしまわれたことに時代の差を感じます。


レンタルビデオもなかった学生時代、散々お世話になったフィルムセンター。新しくなったことは知っていましたが足を運んだのはもう四半世紀ぶり。場所は同じはずなのにまったく違う景色がありました。大ホールは本当に立派で、贅沢なシネコンに入ったよう。座席で飲食できないということを除けば、かつての“国立”っぽい感覚からは随分変わってしまいました。時代ですね。


さて、いろいろと多忙な案件が重なってまいりました。なかなかブログに手をかける時間が難しい状況が続きそうです。しばらくは更新をお休みさせていただきますので、その旨ご了承の程お願いいたします。