「ミスト」2008

kaoru11072008-05-17


写真はすべて(C) 2007 The Weinstein Company

随分久し振りの更新。決して飽いた訳ではなかったのですが、いろいろありまして筆が止まっていました。いろんな事にやや見通しもついてきたので再開です。


公開中の新作「ミスト」。原作であるスティーブン・キングの中篇「霧」を読んだのはもう25年以上前。辛辣な人間描写とモンスターホラーとしての格調高さが小気味よく、日曜の昼下がり(曇天の記憶)に一気に読み終えたことを憶えています。
当時人気のキングの作風はいわば“ホラー講談”。ホラ話を米国庶民の日常風俗の中に置くことでリアリティを担保しながら、怖さの修飾言葉を幾重にも重ねていくくどさが特徴。「ファイアスターター」と「呪われた町」をやっとこさ読み終えたところで食傷気味でしたが、中篇だと弱点が目立たず、作者の人間観がわかりやすく掴まえられる切れ味の良さが印象的でした。私にとってはキングの最高傑作。その感想は今日も変わりません。

原作と映画の両方を観た方ならおわかりのように、ディティールの違いは様々あれ、この作品の怖さと面白さの根幹は原作に描かれています、総て。そこをきちんと理解したシナリオを書き演出したフランク・ダラボンは実にセンスが良いお人です。レベルが高い。兎に角小説自体が極めて映像的、映画的に描写されていたのですから、映画化にあたってはそのテイストを損なわないことが何よりなのです。その意味で、この監督は素材の活かし方を知る料理人なのでしょう。

CG技術による的確なモンスター描写、残虐描写の見事さは今日的です。しかし、本作の怖さの本質は、“絶望の中の人間”と“人間がもたらす絶望”にこそあります。特撮CG抜きでの映画化も不可能ではないのです。お化けも怖いが人間も怖い。その両方をデリケートに組み立てていった構成と演出のバランスのよさ。実際にそのスーパー店内に観客を置くかのような、おそらくスティディカムを有効に使った撮影のリアリティ。スプラッタ・ホラーの怖さにドキュメンタリーやニュースを見るかのような感覚を掛け合わせた120分間が、心臓を掴んで離さない。それにしても、昔読みながら浮かんだ脳内イメージが本当にそのまま映像化されていることは不思議な感慨を味わえます。まさに期待通り。

喧伝される通り、ラストシーンの展開はダラボン監督がキングに了解を得て描いたオリジナル。成る程これはありです。最後まで辛辣な人間描写。これも、あり。でも、私は本作に子どもを連れて行こうとは思いません。彼らにはまだ“絶望”を教えたくはありませんので。