「妖星ゴラス」1962

1998年のハリウッド大作「ディープ・インパクト」と「アルマゲドン」は、巨大隕石衝突の危機を迎えた人類(=米国民)のパニックと苦闘を描いてヒットした。特に後者は、隕石破壊に赴く命懸けのヒロイズムを徹底した娯楽色タップリのベタな演出で大ヒット作に。
同じモチーフの物語は「メテオ」1979年など、特撮映像を見どころにしたSF大作として周期的に作られる印象があります。「ディープ…」は巨大な天災を受難として受け入れる人類の悲哀を描いてある程度のリアリズムを醸していましたし、「メテオ」は東西冷戦が継続していた時代の象徴として、米国とソ連(ロシア)が互いを牽制して隕石への核弾頭全弾発射を躊躇するという皮肉が描かれてもいました。それでも、この題材は、現実に生ずる可能性が無視できないとはいえ、ドラマとしては荒唐無稽なプロットにならざるを得ないもの。いずれにせよ、興行の生命線は特撮映像の見応えにあると言えます。

そんな題材ですから、1960年代の東宝映画、円谷英二のアナログ特撮テクニックが世界最高水準の映像を紡いでいた時代に、日本映画でも極めつけの一本がありました。最近では知っている人も少ない、1962年製作の「妖星ゴラス本多猪四郎監督作品がそれ。

ストーリーは単純明快。地球の6千倍という巨大な質量をもって接近する新星ゴラスの存在を日本の宇宙物理学者たちがキャッチ。国連を軸にした世界の科学者達の英知を集めてゴラス衝突・地球消滅の危機から人類を救おうと奮闘するだけのシンプルな物語。
(ここからはネタばれなので、ご留意ください)

大抵は、隕石や新星をいかにして破壊・破砕するかに知恵を絞るのが荒唐無稽といえどリアリズムの最低ラインになるものですが、この「ゴラス」だけは違いました。妖星の軌道を計算した後の突破口として、地球自体の軌道をズラすことで衝突を回避しようとするのです! 
具体的には、南極に巨大な推進噴射装置を設置して、地球自体を巨大なロケット構造にして公転軌道から動かすというのである。荒唐無稽も最上級。私はこれ以上のスケールの映画を観たことがありません。そしてその前提に立って、南極の氷が解けた海面上昇や、新星接近に伴う引力異常のディザスター映像をふんだんに描いていくのでした。その描写の丁寧なこと。荒唐無稽の極みなのに可能な限りのリアリティを描こうとする誠実さ。日本映画らしい味わいがありました。

ラストのオチがまた見事。多大な犠牲は払ったとはいえ、ゴラス衝突を回避した地球の上で、国連に集った科学者たちが次の取り組みを決意します。「次は北極に推進装置を設置して軌道を戻そう」
これは本当に凄いスケールの映画でした。