「男はつらいよシリーズ」1969〜1995

kaoru11072008-09-14


気がつけば第一作目が公開されて40周年。私は決して熱心な観客ではなかったが、平均的な日本人観客と同じ程度にはこのシリーズが好きでした。もっとも吉岡秀隆演ずる甥っ子の満男を軸に据えた後期作品群には足が向きませんでしたが。
その程度の鑑賞者であっても、寅さんを取り巻く作品世界は、何とも切なくて柔らかなノスタルジーを禁じえません。全48作の中で、私が特に好きなものをピックアップします。


男はつらいよ 寅次郎相合い傘」1975(第15作)
これは前頁に記しました。この長きに亘るシリーズの“旬”が詰まった愛すべき1本。浅丘ルリ子のドサ回り歌手リリーが永遠のマドンナとなった運命の作品。勿論、あの“メロン論争”もここにある。



男はつらいよ」1969(第1作)
すべてが始まる第一作。私が観たのは82年頃。シリーズの面白さの要素が殆ど仕込まれている完成度の高さに圧倒されました。初期の作品は、森崎東監督らによる辛辣な風刺喜劇に幅を広げてみたようですが、5作目あたりから山田洋次テイストに固定。それが観客の選択、長寿化の第一歩だったのでしょう。


男はつらいよ 寅次郎夕焼け小焼け」1976(第17作)
大地喜和子演ずる芸者ぼたん、宇野重吉演ずる国宝級の画家青観。それぞれのキャラの魅力とドラマ構成がガッチリ噛み合った大傑作。大滝秀治の演技も最高。リリー同様高嶺の花でないマドンナを軸に、金銭と精神性という永遠のテーマへの寅さん流の切り込みが目頭を熱くします。


男はつらいよ ハイビスカスの花」1980(第25作)
リリー編の佳境。寅さんが最も結婚に近づいた瞬間。沖縄ロケの魅力と、もう若くない男女の隠し味が重層化した感情の交錯を見せてくれます。そしてあのエンディング!渥美氏没後に特別編として公開されたのも納得できる珠玉作。


男はつらいよ 旅と女と寅次郎」1983(第31作)
あの引退劇を控えつつあった都はるみを、演歌の女王との設定でマドンナに据えた「ローマの休日」風の異色作。完成度の高さはともかく個人的に大好き。私がはるみファンになった記念作でもありました。こんな振れ幅も作品世界に溶け込ませてしまう求心力に感心。


男はつらいよ 寅次郎純情詩集」1976(第18作)
壇ふみ京マチ子のWマドンナ。そしてマドンナの死で物語を収斂した唯一の作品。その悲劇性が寅さんの哀感と見事に重なっていく部分が好き。でも山田監督は以後この方法を禁じ手としました。大衆が求める味わいとは違うと判断したのでしょう。それだけに貴重な1本です。


男はつらいよ 寅次郎と殿様」1977(第19作)
私の寅さん体験はこの作品から。高2の夏休み、キネ旬掲載のシナリオに感動。アラカン、のり平、寅さんがひとつの画面に存在する奇跡。特に本作の筋立てと構成は絶妙。前半の緻密な面白さは図抜けています。マドンナの心情がもう一歩深堀りできていればシリーズ屈指の傑作だったはず。


……他にも挙げられますが、個人的な好きにこだわるならこのあたり。ほぼ70年代半ばから80年頃までの作品群になります。私にとっての寅さんはその頃の映画なのでしょう。
平成になってからのシリーズには言葉にできない“無理”を感じていました。その無理を、関係者すべてがやさしく温かく超えようと頑張り続けた善意の連鎖。それは素晴らしいものですが、つらいものでもありました。もし、松竹映画、いや日本映画界にしっかりした興行の柱が他にもいくつかあったなら、運命は変わっていたかもしれません。
寅さんの40周年興行がいろんな形で行われます。そんなことを感じています。