「バンテージ・ポイント」2008

バンテージ・ポイント」の面白さは、決して大統領暗殺テロという社会派的素材にあるのではありません。

極論すれば、モチーフとなる事件は何だって構わない。面白さの核心は“語り口”。そのテリングの切れ味の豊かさと楽しさ。重大事件発生までの30分間を、立場や視点を変えて何度もリフレインするうちに、多重な事件構造と人間関係と葛藤が露わになっていく。そしてクライマックスですべてが帰結し氷解する。この愉快さは、RPGの知的興奮と同種のものでしょう。知的なパズル。ヒチコックが生きていたら、自分もやってみたいと思ったことでしょう。監督ピート・トラヴィス、脚本バリー・レビィ。頭のよい連中です。

……
こんな知的で重厚なコンテンツを生み出せるスタッフが輩出されてくるハリウッド。米映画はネタ切れリメイク頼みになって凋落した、と言われますが、とんでもない話だと思います。少なくともアメリカでは、こういう才能や努力にお金を出すオトナ達が存在しているということです。そこが我が国とは大きく異なる。日本では、商売が成立するとわかりきってブランド確立した後でないとお金が集まりません。もはや「?」しか感想の持ちようのないジブリアニメには山のようなスポンサーが現れ、優良コンテンツへの理解者顔をするこの国のオトナ達。ソフトで稼ぐしかない日本では、知的な面白さに投資する慣習こそ必要に思うのですが…。