「ガチ☆ボーイ」2008

結局今年もベストテンを選出できる程に劇場公開作を観ることはできず、なのでこれがベストだ、と喚いたところで確信は持てません。それを承知で敢えて断じます。この「ガチ☆ボーイ」は私にとっての本年ベスト。映画が好きでよかったな、と心底思える作品でした。こんなベタなものをと笑われても平気。私はこういう映画が好きなんです。
写真はすべて(c)2008 フジテレビジョン/ROBOT/東宝
弱小だけど気の良い連中が集まる学生プロレスサークルを舞台にした、汗と涙と笑いの青春コメディ。しかし佐藤隆太演ずる主人公:五十嵐が一見普通の大学生ながら実は特殊な難病に苦しんでいることで、複雑で多重構造の深さと感動を醸し出します。確かに重篤な健康障害を扱った物語のパターンの枠内にあるのだけれど、単純短絡なお涙頂戴に留まってはいない。潔くシャープで、微笑ましくも抜群に面白い。青春映画の王道の風格と品格。原作は蓬莱竜太の舞台劇「五十嵐伝〜五十嵐ハ燃エテイルカ〜」で、それ自体が立派に面白い訳ですが、若干27歳の小泉徳宏監督の演出編集も見事。特に“学生プロレス”という特殊なジャンルを十分に理解して面白さを産んでいます。役者たちの熱演も見事。感動しました。

主人公:五十嵐の難病は他に先行する映画もあり、決して本作だけのオリジナルではないのだけれど、その悩みや苦しみと克服へのあがきがきちんとビジュアル化されています。そんな主人公の心情に真摯に向き合って役にのめり込んだ佐藤の肉体と表情の素晴らしさ。この映画、本当に役者たちの表情と動きが瑞々しい。五十嵐の妹を演じた仲里依紗も声優として主演した「時をかける少女」を彷彿させ、地味ながら物語世界を支える要の役を演じています。ちびダルママになったサエコもはまり役のキャスティング。学生レスラー達それぞれに肉体のリアル感が、楽しさと痛みをちゃんと画面から伝えてくれる。見ていて常に面白いのです。
加えて、モチーフとなっている“プロレス”の醍醐味を、その胡散臭さに至るまで半端でなく理解掌握していること。映画づくりの姿勢に誠実と隙のなさを感じます。興味のない方にはわからないと思いますが、例えばホンモノの“プロレス”と本作に描かれる“学生プロレス”の違い。プロ野球高校野球に例えられてもまったく違うと答えるしかない微妙な曖昧さで分類される世界。そのニュアンスはまさに知る人ぞ知る、という社会なので、門外漢が触れるとリアリティが消し飛んでしまうものですが、本作はそこにヌケモレ勘違いがありません。しかも面白さにすべて結び付けている高度な創作。クライマックスの試合の描写は本当にプロレスの面白さを知っている人間でなければ演出できないレベルの高さ。しかも、その試合の技のすべてに、それまでのエピソード上にあった心情のエレメントがちゃんと結びつき、伏線が回収されて感動に収斂する。そんなシャルル・スパークばりの古典的シナリオの醍醐味まで味あわせてくれる。これに感動せずして何に感動すればよいというのか。

こんなコメディなのに、観客は誰しも自分自身が生きていることの手ごたえとは何なのか、思いをめぐらせずにはいられないでしょう。フジテレビは良いコンテンツに出資をしました。作り手、演じ手、関わった皆の若さがすべてよい方向に昇華できた本当に旬なフィルムです。

ガチ☆ボーイ【スタンダード・エディション】 [DVD]

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