「昭和枯れすすき」1975
上映時間87分のタイトな青春ミステリー。1本立て興行が主流になるのは1980年代半ばから。この映画も松本清張原作の「球形の荒野」との2本立て。当時流行ったさくらと一郎のデュエット歌謡に便乗した安直低予算映画の構えですが、中身はかなりの曲者。結城昌治の小説「ヤクザな妹」をシナリオ界の巨星、新藤兼人が脚色。74年の大ヒット作品「砂の器」に引き続き名カメラマン川又昇と組んだ野村芳太郎が監督。東北の貧しい農村を出て二人で東京に生きる兄妹の苦い青春物語。新宿西署の若手刑事の兄を高橋英樹。生きる“芯”を見つけられず新宿の街を漂流する妹を秋吉久美子。高橋は時代劇のマンガチックなヒーロー像が定着する前。男気のある二枚目ながら無骨さを孕んで見せた頃。秋吉は前年の74年に藤田敏八監督の3部作(「妹」「赤ちょうちん」「バージンブルース」)で圧倒的な存在感を見せた旬の時期。この二人が近親相姦的な絆を持ちながらリアルに苦悩する訳ですが、キャスティングだけでも貴重なのに当時の邦画界って随分軽く扱ってます。
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西口のビル群が何本か建った時期、西新宿や歌舞伎町、渋谷に明大前の町並みがビビッドに画面を占有します。現在の目で見ると都会らしくない野暮ったさ。地方都市の高校生だった自分には、それでも大都会と見えていた訳です。でもその洗練されないエネルギーが新宿の個性。作中の台詞にあるように“東京は田舎からはじき出されたあぶれもので埋まってる”であり、その象徴が新宿の風景だったのです。
新藤シナリオも、結城昌治の小説の個性を良く表現。結城小説って、要するにハードボイルドなんですよね。ハードボイルドとは、主人公が見聞きし感じることのみに描写を固定した物語表現のこと。その頑なさを“固ゆでたまご”に例えた訳で、本作も兄:高橋視点でしか描写しないスタイルで押し通す。自分が留守の間、妹は何をしてるのか? カメラは神の視点で物語を描けますがそこを制限。秋吉のつかみ所のない個性が、妹は小悪魔なのか純朴なのか、兄と観客を翻弄する効果を生みます。その分彼女の内面の葛藤が見えにくいため、作品としての彫りは今ひとつになっていますが、クライマックスで妹に殺人の嫌疑をかけ留置場に引っ張るシーンはインパクト大でした。こういう切れ味のよいスリラーの小品は、その後TVの2時間ドラマに引き継がれ、結果、質的にはほぼ壊滅してしまいました。勿体無いです。
忘れられないのが、本作の脇役、高橋の恋人(とまでは呼べない関係性も良い味)を演じる池波志乃。実は本作の秋吉は、前述のように描写が浅い影響もあって登場シーンの少ない池波にやや負けています。本当にここでの池波は“いい女”でした。とはいえ、この時期の秋吉久美子は素晴らしかった。特に「赤ちょうちん」のラストの彼女は忘れようもない鮮烈な印象を与えてくれましたっけ。
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