「出口のない海」2006
丁寧に製作された誠実な映画。神風特別攻撃隊に比して知られざる戦術兵器と言える人間魚雷・回天の存在。それを改めて知らしめる製作意図には意義があります。本作を観た若い世代が、少しでも60数年前の事実の重みを受け継いでいくのならば、1本の劇映画として十分に価値がある。しかし、戦中世代と現代の若者層とのブリッジ世代の自分には、本作を素直に評価することはできません。
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昭和期の戦争映画群には、あの時代とあの時代の日本人を生きた当事者たちが多く参加していました。あらゆるクリエイティブの現場を彼らが支えていました。それは、いかに安易なイデオロギーに流れた骨格の映画であろうとも、日本と日本人が過酷な総力戦を生き抜いた当事者のリアルがすべての描写に滲まざるを得なかったことを意味します。もはや戦後生まれとすら呼べない新世代のみで戦争を描写するのであれば、登場人物の精神性とその価値観を徹底して彫りこまねばならないはず。本作はその点が甘いのです。
現代の価値観で、過去の悲劇を断罪することは簡単かもしれない。そこからこみ上げる涙は観るものを絶対平和主義者の錯覚へと連れて行ってくれるでしょう。しかし、それでは何の現実検討にもなりません。ただの思考停止です。このように過去の再現を意図した作品ならば、せめて過去に生きたもの、そこから死に赴いたものの真実を本気で受け止めさせるリアリズムが必要ではないでしょうか。
本作の下敷きは、1955年の新東宝映画「人間魚雷回天」(脚本・須崎勝弥/監督・松林宗恵)であり、1979年の「英霊達の応援歌・最後の早慶戦」(脚本・山田信夫・岡本喜八/監督・岡本喜八)。過去の作品が容易に検索観賞可能である現在、改めて製作する映画なのであれば、これらの下敷き作品を観直すことでは得られない価値を描写せねば意味がないでしょう。特に「人間魚雷回天」はぜひ多くの若い世代に観て欲しい。本作とほぼ同じストーリーラインながら、人物の精神性は明らかに当時のリアルに肉薄しています。これを知る、せめて感じるところから何かを始めてほしいと思います。
- 出版社/メーカー: バップ
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