「スカイ・クロラ」2008

押井守が「うる星やつら」をTVに劇場版にと描いていた頃の才気には憧れたものです。いつしか大御所ですが、まっとうに面白い作品づくりを忘れないのがオトナです。実写が撮りたいアニメ監督としてバランス感覚が見事なんですね。本作も、類似作が見あたりにくい個性的な作品でした。

写真はすべてⒸ森 博嗣 /「スカイ・クロラ」製作委員会
地球上の架空の時代、架空の世界。世界が平和な社会を維持するために、どこかで戦争状態を維持し続けるというシステムがある。その戦闘は、巨大軍事企業が請け負っており、戦闘員は特殊な生を受けた「キルドレ」という若者たち。彼らは年をとらず、この不思議な戦争を維持遂行するためにのみ、戦闘機に乗って空を駆ける。
物語やキャラクター設定の面白さを、私は今回それほど強くは感じませんでした。あえてシンプルな2次元キャラとして、平板に描かれた人物たち(感情移入を制限するために目を小さく描く)と対比させる、メカニックのリアリティ。その動画の美しさと官能に魅せられました。人物が平板であることで、戦闘機の機体の立体感、複雑性が前面に出てくる面白さ。

CGをふんだんに投入し、アニメーションなのか実写映像なのか視覚刺激がシンクロしてしまう出来栄え。できれば大スクリーンで観たかった。戦争と戦闘は忌避すべきものですが、機能を磨きぬいたメカニックの持つ美しさは不思議にも人間を魅了します。紺碧の空に白雲がたなびき、切り裂くようにステンレスの機体が光を反射する・・・。
この映像を見ながら、きっとこれは円谷英二特技監督が実現したかったものに違いないと思っていました。まだCGが登場する10年以上前に生を終えた日本が誇る特撮映像の神様。ミニチュアとピアノ線による操演という原始的な技術なのに、大空を舞う戦闘機の編隊は、まるでホンモノのようでした。それは現実を実写したという意味でのリアルではなく、ミニチュアワークという特殊なものとわかっているのに、本物感を充填するという映像作家の魂という意味です。この映画は、円谷と押井が、メカニックへのフェティッシュという意味で同根の作家であったことを感じさせます。

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