「サマーウォーズ」2009

経産省の資料によると、日本のコンテンツ産業の経済規模は約14兆円。そのうち映画興行(ソフト販売は除く)は2千億とあります。それなりの規模と感じますが、その隣に記されたパチンコ産業の数字は約28兆円。放送・新聞・音楽・出版・ゲーム・映画が束になってもパチンコの半分。幾多の才能と熱意が創意工夫を重ねてきた110年を経ても、映画はパチンコに遥かに及ばないビジネスなのです。どのようにして日本のコンテンツ産業を活性化できるのか? そのあたりの課題意識は、この夏発刊された「デジタルコンテンツ白書2009」がわかりやすいです。

デジタルコンテンツ白書(2009)

デジタルコンテンツ白書(2009)

そんな思いを抱えながら観た「サマーウォーズ」。天才アニメーター細田守監督作品。3年前の「時をかける少女」は東京で1館のみというとんでもない興行でしたが、今回は日本テレビとワーナーが製作委員会に参加してシネコンレベルに展開ができました。前作が非常に高い評価を得ただけに次回作はと心配になるところですが、細田守はそんなに薄いクリエイターではありません。実に巧みな創作になっています。
サマーウォーズ」の元ネタは、細田自身が2000年に監督した中篇「デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム」だとわかっていました。それを約10年後の現在にどうリファインしてくれるだろう?

私はこの映画を高く評価します。面白さという点でも図抜けていますが、ここには高い志(こころざし)を込めた豊かさがあります。末梢神経的感動や自己満足的な癒し感覚を短絡的に商品価値にせず、普遍的な人間賛歌と今日的な社会性を編むことでエンターティメントを創ろうという意志。「デジモン・・・」と「SUPERFLAT MONOGRAM」を素材にして、どう今日的な大作に料理するか? ここに大家族ホームドラマと「七人の侍」など様々な映画的記憶を用いてくる力量。感服です。余談ですが、序盤の旧家の大屋敷に迎え入れられていく主人公、の描写は、野村芳太郎監督の「八つ墓村」1977の展開に似てましたが、偶然だろうと思います。
9年前の「デジモン・・・」で、ネット世界の怪物と闘う子ども達は家族の輪から離れてPCに向き合いました。そして、今度の主人公たちは家族みんなで戦いに向き合う。ここに今日的社会性を描きこもうとする作家性を見ます。2010年を境に、日本の世帯人口統計は「夫婦とこども世帯」の割合を「単身世帯」が上回ります。家族形成のライフスタイルの物語がマジョリティではない時代にこの国は入りました。いったん個に分解した人間が、もう一度新しい形でつながろうとする予感、それを本作は映画世界の豊かさとして内包しています。そんな志のある娯楽映画を観るのは良いものです。
私たちは、何故、映画を観るのでしょう? 手っ取り早い娯楽ならパチンコで十分です。事実そうしている人々の方が多いのです。でも、映画を観て心を揺さぶられた体験が一度でもあったのなら、やっぱり映画を観ようと思ってしまいます。例え経済行為としては陳腐なものだとしても、です。そういう体験を得るためには、やはり映画の中が豊かでなければならないと思います。
幸福の方程式 (ディスカヴァー携書)

幸福の方程式 (ディスカヴァー携書)