「2001年宇宙の旅」1968

BDプレーヤーとしてPS3を利用しています。これがなかなか良い画質。レコーダー機能は不要と割り切って使ってみると、ゲーム機のユーザビリティは明らかに家電メーカーの思想と異なります。こういう微妙な実感差異って、今起きつつある変化を認識する上で結構大事だと思います。
と、いうことで久々にBDで再見した本作。40年以上経過しながらここまで陳腐化しないビジュアルセンスとクオリティ。畏れ入ってしまいます。BDの情報量と大画面TVによって、家庭内視聴でも質感を再現できるようになった訳ですが、劇場未見の立場として、これはやはり劇場で体験したい。

アーサー・C・クラークの原作からスタンリー・キューブリックが大胆にイメージを描き、視覚効果の偉大な職人ダグラス・トランブルが緻密で美しい特撮映像を展開。CGなど一切存在しない当時の創作環境です。いかにビッグ・バジェットを費やしたとはいえ、当時の技術でここまで完璧な空想映像を構築したことがまず驚異的。科学考証上若干のチグハグさはあるものの、半世紀近い間に一般に認識された情報との格差を思えば気にする程ではありません。そんなことより、本作がその後のSF映像、宇宙ファンタジー映像のあり方に与えた影響の大きさを感じ、圧倒されてしまいます。本作のあと「スターウォーズ」まで約9年かかるのですから。

映画110年の歴史の中で、明らかにクラシックとなった作品がありますが、本作の冒頭20分はまさに映画話術の標準になっています。一切のセリフや説明抜きの確固たるショットの積み重ねが、過去から未来に至る時空間の連なりと形而上的テーマを端的に伝えてしまいます。そのシンプルな力の凄さです。散々語り尽くされたとはいえ、類人猿の放り投げた骨に、私たちは自分達の歴史を見出せずにいられません。キューブリックのセンスはここに永遠を手に入れました。

若い頃はストーリー追い的な見方をしがちだったので、本作のゆったりとした語り口と徹底した説明書略に、うまく乗り切れませんでした。でもいい歳になって観てみると、キューブリックの狙いがしっくりきます。良い感じです。何より画面の隅々までイメージの粋を凝らしたディティールの豊かさ。その美しさ、センスの良さ。キーボード付きPCと携帯電話、スマートフォンの発想が現実と異なったくらいで。2010年代に生きる現在の観客にも陳腐さを感じさせることはないでしょう。CG全盛の現在の映画ですら、5年も経過すればおやおやと思わざるを得ない作品があるのに比して、本作の屹立する位置がいかに高みにあるかに感嘆してしまいます。真に一流の映画です。これこそ3D化して劇場にかけるべきです。

2001年宇宙の旅 [Blu-ray]

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ということで、ソフトを購入するならBDで買うべき作品のひとつです。私はレンタルしましたが、これは手元に置きたくなってしまいました。
さて、冒頭に少し記したゲームメーカーと家電メーカーのユーザビリティ哲学の差異は、本作のテーマである、人類とテクノロジーの進化のあり方を考える上でも捉えたい観点です。私たちはいついかなる時代にあっても、自分が生きてきた時間の中で常識と認識してきた枠組みから離れることに不得手です。既に変化は生じているのに、旧いものからの既得感覚、そして既得権益を捨てることが下手糞です。新しいものが抱えるリスクを思うと怯えも感じますが、新しい潮流の中で過去の問題を超越できるチャンスが得られるかもしれません。未来とは可能性を信じた人間達だけが拓いてきたものだと思いますので。
決定版 2001年宇宙の旅 (ハヤカワ文庫SF)

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