「トゥルー・グリット」2010

コーエン兄弟とはどうにも波長が合わず好きになれずにいました。でも本作はお見事。腹に響くエンターティメントを魅せてくれました。アカデミー賞ノミネート10部門は伊達じゃなかった。ジョン・ウェイン主演「勇気ある追跡」1969の事実上のリメイクになる本作。ハリウッド伝統の西部劇は40年の時を経て、その娯楽性と寓話性を保持しながらジャンル映画のパターンを葬りました。商業価値と作家性が高いレベルで融合しているので、誰でも楽しめるのに心に沁みる映画でした。アカデミー本賞を逃したのが納得いかない気分です。

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文句なしのキャスティング。マット・デイモンが脇に回っていることでその贅沢さがわかります。ジェフ・ブリッジスの演技は流石ですが、この映画は何と言ってもヘイリー・スタインフェルド。父の仇を撃つ意志を貫くヒロイン:マティを演じます。撮影時若干13歳。キャラクターそのままの存在感。助演賞にノミネートだったようですが、明らかに主役として編集されていました。それだけの圧倒的な存在感。彼女の演技だけでも一見の価値があります。

PG12での公開ですから、アクションには瞬間の緊張を強いるハードな描写が伴います。また、歴史的事実としてそうであっただろう人種差別的な主人公たちの行為というものもサラリと描かれます。ラストシーンから印象付けられるヒロインの運命にも生理として複雑な思いを抱かせる描写がありました。かつての「勇気ある追跡」ではそうしたものが削ぎ落とされていたようですが、本作は敢えてこだわっています。そこがコーエン兄弟らしいといえばそれまでですが、“3.11”を経ている身とすればそこに改めて感じるものがあります。
つまり、マティ(ヘイリー)のように凛と賢く美しい少女にも、この世界に存在する残酷さ、過酷さは当たり前のように降りかかってくる、という演出が響いてくるのです。原作は未読ですが、この物語は多分に寓話的、神話的なものに感じます。興味をかきたてる物語でありながら、精神的な教訓性が豊かというタイプのドラマです。それを映画にする時、“9.11”を経たハリウッドはリアリズム描写を選択したということです。誰のどんな人生にも、残酷なもの過酷なものはあるのだと。それが当たり前なのだ、と伝わります。その自覚からしか他人の人生への共感などあり得ません。映画「トゥルー・グリット」にはそれが確固としていました。だから感動しました。