事件で思い出す・・・「刑事ジョン・ブック 目撃者」
おそらくは現時点で、主演のハリソン・フォード、監督のピーター・ウェアー、ヒロインのケリー・マクギリスにとっての最高作です。
先日の痛ましい銃乱射事件で思い起こされました。
“アーミッシュ”を舞台にしたハリウッド映画の佳作です。
L刑事ジョン・ブック 目撃者 (英語/日本語字幕) [DVD]
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フィラデルフィアの駅で殺人を目撃したアーミッシュの少年。捜査を担当したジョン・ブック刑事は、目撃者の少年に事件のことを聞き出そうとする。そして彼が指した犯人とは驚くべき人物だった。
少年を狙う犯人をチラつかせ、スリリングに見せる一方、信心深く、質素な生活を送るアーミッシュの人々との心の交流など、人間ドラマもしっかり描いた脚本が見事。アカデミー賞脚本賞受賞も納得だ。(Amazonの紹介文より)
多くの人と同じように、私が“アーミッシュ”を知ったのはこの映画によってです。
文明の進歩を採りいれることなく徹底した非暴力・非武装を貫く生活様式は感慨深くもありました。
映画の公開から20年を経て、現実の暴力はアーミッシュに踏み込み、それも学校の子どもたちという最も弱い部分を蹂躙してしまいました。
映画においても、そこはハリウッドのサスペンスものですから、彼らの世界に現代文明の暴力が流れ込んできます。
ヒーローたる刑事は、最低限の自衛的な暴力で敵を撃退しますが、やはり住む世界の違いを痛感しながら、愛を感じた女性を残して都会へと去っていきます。
しかし現実の世界で、銃を乱射する男が現れた時、彼らを守るヒーローはいませんでした。
“自分を撃ってよいので他の人は解放して”と訴えた少女にも、銃弾は撃ち込まれたと聞きます。
実存する暴力の前で、非武装・非暴力を貫くことはできるのでしょうか?
長期的な視点に立てば、非暴力が暴力を包み込む形で最終的に勝利する可能性はないとは言えません。
しかし、目の前では、おそらく確実に、自分や自分が大切に思う人間が傷つけられることでしょう。
それでよいのだろうか、ということです。
自らの首を絞めるような核実験を行う隣国の前に、憲法9条の御旗を掲げている私たちも、アーミッシュの人々と似たようなものです。
大きな違いがあるとすれば、日米安保という“ハリウッドヒーロー”の傘の下にいるということでしょう。
少し話題がそれますが、40年前に創作された「ウルトラマン」や「ウルトラセブン」でも、作者たちはこの問題に直面していました。
怪獣や宇宙からの侵略者に蹂躙される地球(日本)を守ってくれる正義のヒーロー。
彼らを正義の宇宙人と設定したときに、結局、非武装平和主義と日米安保の問題を内包せざるを得なかったのです。
この2つの子ども番組の最終回は、いずれも敵の圧倒的な暴力の蓄積の前に傷つき倒れるヒーロー像が描かれます。
地球(日本)のために怪獣たちとの代理戦争を戦い抜いてくれた正義の宇宙人が倒れた時に、自らの手で必要な暴力を駆使して敵を倒す地球(日本)人の自覚を宣言して物語は終わりました。
そのように描写しない限り、子ども番組といえども幕を下ろすことができなかったのです。
それらの脚本を書いた故金城哲夫氏が、沖縄出身であったことも痛切な皮肉でした。
ハリソン・フォードを書いていた積りが、へんな展開になってしまいました。 スミマセン。
「刑事ジョン・ブック 目撃者」は、アーミッシュの生活様式の独自性をうまくストーリーに落とし込みながら、アクションスリラーとしての面白さと、切ないラブストーリーのテイストがブレンドされ、とても味わい深い映画です。
監督のピーター・ウェアーが、オーストラリアの人であったことも、映画全体にアーミッシュの文化に対する節度ある態度を漂わせることにつながったのかもしれません。
品格のある映画です。未見の方は是非ご覧下さい。