「時をかける少女」2006

kaoru11072007-01-06

昨夏に評判だったこの作品、結局劇場公開は殆ど拡大できませんでしたが、その評価の高さが形になって表れ始めています。
さしあたり年末に3件の受賞が告知されました。



報知映画賞:特別賞】【文化庁メディア芸術祭:アニメーション部門大賞】【第1回インビテーション・アワード(ぴあ主催):アニメーション賞】。
これから春にかけて次々顕彰されることでしょう。4月には待望のDVD発売が予定されるそうです。


大林作品のリメイクだと思っていたら、全然それは違ってた。期待を遙かに裏切られた。それもとっても良い意味で裏切っていて感心した。アニメ映画というより、今年の日本映画の中でも出色。あの作品をうまく現代に甦らせた。(報知映画賞選考委員・小野耕世氏のコメント)

本作において、まず細田守監督の「ディレクション」力の高さが証明された。見た人のモチベーションを上げる魅力があり、実生活の“明日”につながる魅力的な作品だった。また、アニメーション表現における「フレームの外」を見せようとしている「チャレンジ」が、アニメーションの表現として決定的でショックを受けた。(インビテーション・アワード受賞理由)


時をかける少女 絵コンテ 細田守

時をかける少女 絵コンテ 細田守


賞を摂れば偉いという訳ではないでしょう。しかし、興行の機会に恵まれなかった良作にとって、世間一般に知らしめうる“お墨付き”は作品生命のためには大事なことだと思います。
アニメーションという枠にとどまらず昨年の日本映画として出色の本作と、細田守という新たな才能が評価され顕在化されていくことは、極めて健全なことだと思います。
因みに【日本アカデミー賞ノミネート】もありますが「ゲド戦記」も同等にノミネート。その下品な趣旨が透けて見える賞なので語るに値しません。


“意図せざる形でタイムリープする能力を得てしまったひとりの少女の初恋とその喪失” 奇才筒井康隆氏が40年前に記したジュヴナイルのテーマはこの1行でした。
最初の映像化は72年、NHK少年ドラマシリーズ第1作「タイムトラベラー」。島田淳子(=浅野真弓)・木下清主演。シリアスな学園ミステリーのテイストで、瑞々しい印象を記憶に刻んでいます。
映像化の決定版は、やはり83年の大林宣彦監督作「時をかける少女」。原田知世を売り出すアイドル映画というミッションを背負いながら、死と喪失の切なさに基づくストイックな基調の上に温かな愛しさの感情を融合させ、愛すべき傑作に結晶化されていました。
この大林版を超える映像化は無理だと、愛好者の誰もが思っていたところに逆転のカードが出てきた訳です。
06年版は、同じテーマを現代の動的な青春像に焼き付けることに成功しています。83年版の静的なイメージを超えるために、アニメーションという手法は極めて有効でした。
切なさを表現するにあたって、この映画はヒロインを徹底的に走らせます。跳ばせ、転がらせ、わめかせます。その動的な描写の連続で構成されるクライマックスが、時をかけるヒロインのこれから未来に向かって開いていく“生と可能性”の物語を結晶させて本当に見事。観終わって元気になれる、これぞ青春映画です。



それにしても…。上記3つの映像化が、いずれも制作者の入魂を導き、観たものの記憶に深く刻まれる成果に至っているとは、何と幸福な原作でしょう。


ガーネット

ガーネット

そして、この映画の主題歌と挿入歌。奥華子氏(東京電力CM等でお馴染み)の作&歌唱ですが、物語世界とうまくシンクロした適度に感傷的な歌で、私は好きです。本作鑑賞の際は、エンドロールの最後まで席を立たず、「ガーネット」を最後まで聴かれることをお薦めします。