憧憬の男優

追悼。緒形拳

1968年NHK「開化探偵帳」     新宮寺京介
1972年ABC「必殺仕掛人」     藤枝梅安
1974年松竹 「砂の器」       三木謙一
1975年ABC「必殺必中仕事屋稼業」 知らぬ顔の半兵衛
1976年ABC「必殺からくり人」   夢屋時次郎
1978年松竹 「鬼畜」        竹下宗吉
1979年NTV「ちょっとマイウェイ」 堀田コック長
1979年松竹 「復讐するは我にあり」 榎津巌
1981年NHK「タクシー・サンバ」   朝田英一

私がリアルタイムで影響された緒形拳の役柄は上記。テレビも映画も区別なく圧倒的な存在感。
1970年代半ばから80年代初頭までが、この名優の明らかなピークでした。その時期に思春期から青春期を過ごし、その演技を目に焼き付けられたのは同世代の幸せです。80年代半ば以降、彼の個性と質量と度量がうまく合致する作品企画が創出されなかったのでしょう。ネームバリューに拮抗する代表作が見当たらなくなって行きました。少し残念な気もしますが、旬の時期があまりに鮮烈なので、そんなことはどうでもよくなってしまいます。

Ⓒ松竹・シナノ企画1974
強烈に個性的な風貌でありながら、作品世界ごとにちゃんと異なる人間像を演じている凄さ。
例えば、同じ必殺シリーズでも「梅安」「半兵衛」「時次郎」のキャラがかぶっていないという事実。「砂の器」の誠実篤実な巡査が、「鬼畜」では貧しさと優柔不断に悩む父親になり、「復讐するは我にあり」の突き抜けた冷酷な殺人者になる振れ幅の大きさ。その同時期には、「ちょっとマイウェイ」でコミカルな中年役で笑わせてくれていたという事実。いつみても同じ緒形拳でありながら、作品世界唯一のキャラクターでしかないことがいかに突出していることか。

「何故だ? どげえしてなんだ? 会えば今やあかけちょう仕事がいけえようになるなんて。何でそねえなこと言うだらか? たったひとりの親。それもあげな思いをしてきた親と子だよ! わしゃお前の首に縄つけてでも引っ張ってくから! 来い! 一緒に。秀夫!」 映画「砂の器」の三木謙一が物語の核心を突く搾り出すような絶叫台詞です。いつの間にか諳んじてしまいました。
映画「鬼畜」では、愛人に生ませた幼い男の子を殺そうと親子で旅をする宗吉。安旅館の部屋で酒を飲みホロ酔い気味。貧しかった少年期の思い出を涙ぐみながら独り語るシーンの重み。映画の中に本当に人生があると感じました。


昨日から放送開始されたフジテレビ「風のガーデン」が事実上の遺作となりました。静かに観て、見送りたいと思います。