「東のエデン」2009

劇場版は未見なので、ここではTV放映分全11話についてのみ言及しています。
商業映像コンテンツは往々にして見事に時代の気分を内包するもので、プロダクションIGで神山健治が作り出した本作はまさに該当する作品でした。羽海野チカのキャラ原案や、謎めいた設定を最後まで明らかにしないで引っ張っていく話術がこそ目立ちますが、神山監督が込めた硬質な社会性こそが本作の肝だと思います。同時代を撃ち抜くようなエッジの効いた描写にはなかなかお目にかかれなくなっている中、これは貴重です。

本作の2人の主人公、滝沢朗と森美咲がとても魅力的。彼らが直面する事態は突拍子も無いフィクションなのだけれど、日常の描写は日本の“今”のディティールを丁寧にすくい取っています。だから彼らの目線や感受性が絵空事になっていない。この愛すべき味わいが基調にあるため、物語展開がどんなに大風呂敷になってもついて行けます。新卒内定切りとミサイル攻撃を同一のドラマに描けるのは、そういう地に足の着いたディティール描写があるからです。そして滝沢の性格設定。どんな局面にあっても常に前向き、加えて他者に手を差し伸べる姿勢を決して忘れない。まさしく理想的なヒーロー像なのですが、それをうまくオブラートに包んで曲者感を出し、複雑な人物像を作っています。こんなヤツが現実にいたら皆を惹き付けて止まないでしょうね。

小説 東のエデン (ダ・ヴィンチブックス)

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そうした物語基盤の上に、ケレン味たっぷりのストーリーが乗っかる訳ですが、ここに込められる社会性が直球勝負。この日本を、これからの日本をどうしたいのか? という問題提起を突きつけてきます。感心するのは、そんな直球勝負をそのように単純には見せないという仕立て方の妙味です。そんな重苦しいテーマを単純に突きつけたところで誰も飲み込んではくれません。しかしドラマ展開が面白ければ話は別。ニート格差社会内定切りや学生起業…等々同時代のキーワードをうまくドラマに絡ませながら、硬派なテーマを巧みに織り込んでいます。時代の気分を描いたコンテンツとして、非常に興味深いものがありました。もっとも、劇場版での完結が前提となるためか、9話以降の展開がやや荒くなり、語り足りなさが目立ってしまいます。その意味では手放しで評価する訳にもいきません。それでも私には、今年完結する劇場版への期待があります。
東のエデン オフィシャルナビゲートBOOK (ぴあMOOK)

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フィルムコミック東のエデン

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