「暗闇仕留人」1974 「必殺必中仕事屋稼業」1975

講談社から発売されている必殺DVDマガジン。レンタルに出てきづらい初期の必殺シリーズからキャラクターごとに2エピソードずつ抽出して廉価で販売。そうそうDVD-BOXなど買えませんのでこれは助かりました。お蔭で久し振りに再会できました。若き石坂浩二演ずる“糸井貢”と、演者として旬の時期にあった緒形拳演ずる“知らぬ顔の半兵衛”に、です。

必殺DVDマガジン 仕事人ファイル7 糸井貢 (T☆1 ブランチMOOK)

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必殺DVDマガジン 仕事人ファイル3 知らぬ顔の半兵衛 (T☆1 ブランチMOOK)

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1972年、当時としては斬新この上ない時代劇「必殺仕掛人」が放映開始。明朗な勧善懲悪に基づかないダークなストーリー。陰影の濃いスタイリッシュな映像と誇張の極みのような殺しのシーンが評判を呼び高視聴率を獲得。現在まで続く、所謂“必殺シリーズ”がそこから始まりました。私は中学生になったばっかりで、金曜8時の「太陽にほえろ!」に惹き込まれていましたので、同日10時の「仕掛人」そして、続く「必殺仕置人」を観るには至っていませんでした。実のところ、リアルタイムで視聴開始するのは1975年のシリーズ第6弾「必殺仕置屋稼業」からです。とはいえ、当時は日中の再放送が盛んでしたので、放課後や夏休みなどに旧作を観倒すことが可能でした。中でも私にとって出色だったのが前述の「仕留人」と「仕事屋稼業」の2つのシリーズでした。

そもそも“必殺シリーズ”の特異性とは、それまで時代劇のお約束だった『殺し屋=敵役』の構図を壊し、『悪党である殺し屋が、稼業としてではあるが人情として許しがたい自分以上の悪党を人知れず葬る』という作劇にありました。それが人気を得て連作されていく訳ですが、私の心を打ったこの2作は、シリーズ開始後3年から4年で登場した初期の作品です。殺し屋を主人公とする物語という枠組みを守りながらも、主人公たちの内面の葛藤にグッと踏み込んで描きこむスタンスが、最も顕著だったのではないかと思います。80年代以降の“仕事人ブーム”には望み得ない、真摯な作劇志向がそこにはあったと思います。

糸井貢は蘭学者崩れの名も無き幕末インテリ、半兵衛は博打好きな蕎麦屋のオヤジ。それぞれドラマの設定は異なれど、従来の時代劇ではヒーローであるはずのなかった人物像が、非道の悪党を闇に裁く殺し屋として成長し、やがて破滅していく物語に、思春期の少年だった私はひどく影響を受けたと思います。もちろん、先鋭的で戯画的な殺人描写のカッコよさに惹かれたこともありますが、彼らが内面に抱え込んだ葛藤の闇の深さのようなもの(中学生がそんなに論理的に考えたりはしないので、後になって思うのですが)に影響されてしまったようです。人間は通り一遍の理屈や属性で割り切れる存在ではない、という人生の真理のようなものを感じた、とでもいいましょうか? そんなこんなの影響を与えまくった“必殺シリーズ”は、いかなる若い熱気の中で生み出されたのかについては、春日太一氏の「時代劇は死なず!」に詳しいので興味ある方はぜひお読みください。何だか思い入れが強いばかりで、どうにも要領を得ない文章になってしまいます。ご容赦ください。何にせよ、私が物語を面白がるようになっていった背景に、この初期必殺シリーズを思春期のやわらかい感覚にinputしてしまったことが確実に影響しています。例えば、日本人を刺激して止まないドラマの教科書に「仮名手本忠臣蔵」がありますが、そこに描かれた錯綜する人間同士の葛藤のエッセンスは、形を変えながら悉く当時の必殺シリーズの作劇につぎ込まれていたことがわかります。そんな旬なドラマを思春期に体感できたことは、私には大きかったと言えます。数十年ぶりにDVDの映像に接してそう思っています。
なお、当時の必殺シリーズは、1976年にいよいよ特異な傑作、「必殺からくり人」というミニシリーズを創出する訳で、私の最も好きなTV映画のひとつになりました。そのお話はまた後日といたします。