「風林火山」1969

井上靖の原作を稲垣浩が映画化した大型時代劇。伝説の軍略家山本勘介を主人公に、武田信玄の快進撃とその挫折を描く。クライマックスの川中島はじめ有名な戦国物語。小柄で異形とも言われる策士勘介を演ずるは大スター三船敏郎。それは、歴史のリアリティを捨てて娯楽色を強化するため。信玄に中村錦之助、謙信に石原裕次郎等々文字通り当時のオールスターキャスト。三船自身もプロデューサーとして参画しており大ヒットが義務付けられた本作ではそれも致し方ないこと。しかし、これが意外なほど面白い。

事に当たって非情な謀略も厭わない才覚に優れる異形の浪人山本勘介は、日の出の勢いにある甲斐の武田家への仕官に成功する。たちまち頭角を現した勘介は、信玄の信頼を得て様々な合戦の軍略を成功に導く。信玄の側室夕姫への想いを秘め、武田家の勢力拡大やがては国内平定への夢を追い続ける勘介だったが、歴史の歯車は勘介・信玄・夕姫の運命を少しずつ狂わせて行く・・・。

風林火山 [DVD]

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本作前半1時間程の面白さ醍醐味は格別。質量共に確立された組織とシステムの中で、意志と知恵を持つ個人がどのようにトップを動かし、組織を動かし、直面する問題状況を突破し行くのか。それを小理屈抜きに示してくれる。言葉でなくそれをわからせるのは、三船をはじめとするトップスターの威風堂々たる体躯や極めつけの表情や仕草といった演技のビジュアル。また、それを計算して構成されたロジカルなシナリオ(名脚本家橋本忍!)、戦前から手堅い演出の名手稲浩のスケール豊かな語り口が素晴らしい。
リアルな歴史ドラマというより、戦国合戦を背景にした組織人のドラマとでもいいましょうか。サラリーマンなら思い当たる場面がそこかしこに散りばめられています。例えば勘介が召抱えられる面接の場面。武田家重臣が取り囲む中、信玄と勘介の一問一答のシーンのわくわくする面白さ。信玄の心を一発で動かした“志望動機”を語る勘介。いいですね。

この映画における、勘介:三船敏郎と夕姫:佐久間良子の関係は、「劇場版クレヨンしんちゃん嵐を呼ぶアッパレ!戦国大合戦」2002における廉姫とその家臣井尻又兵衛の関係の下敷きになっているとわかります。そもそもアニメの井尻又兵衛のキャラクターモデルはどう見ても若き日の三船敏郎。物語は異なりますが、組織と身分の上下関係の中で秘めた想いと意志、という意味でこのふたつの映画は同類です。その「クレしん」はそのままこの秋公開の「BALLAD名もなき恋のうた山崎貴監督作品で実写リメイクとなりました。それはそれで楽しみでもあります。